読書感想:多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉

 

 さて、並行世界と書いてパラレルワールドと読む訳であるが。並行世界というのは自分達の生きる世界とは、何処か少しだけ異なっている世界であり、そこには自分でない自分がいるらしい。と言う事は、もし並行世界があるとしたら、ラノベを読んでいない私もいるのだろうか。例えばTCGや漫画といった別のものに熱中している私もいたりするのだろうか。

 

 

 

という事を言ってみても、我々は並行世界の観測と言うのは今は未だ出来ぬ訳で。夢想してみても何かが変わる、何かが分かる訳でもない。しかしこの作品は、そんな並行世界というワードが密接に絡んでくるお話であり。主人公、秀渡(表紙右)は過去の事件で頭にけがを負った事で、並行世界の観測どころか行き来まで可能とした、というとんでもない能力を持っていたのである。

 

―――はい、ストップ。

 

その能力を生かし、真っ暗闇の中に無数の扉が浮かぶ世界から幾多の並行世界を行き来する彼。自分の好きなタイミングでその世界の時間を止め、自分の好きなように無数の並行世界を行き来し。ある時は、国民的アイドルグループの一員であり朝美(表紙左)と恋人同士である世界。またある時は、生徒会長である陽菜乃の右腕である世界。更にある時は義妹である樹里との日常を楽しむ世界。 様々な世界での青春を心のままに楽しんでいた。

 

「世界を元通りにするにはやっぱり秀渡君じゃないと出来ないんだよ」

 

しかしある日、不意に予想外の事態が発生する。幾多の並行世界の統合、世界中の人間が統合されていく事で起きる大混乱。狂い始める人間関係、何処にも行けなくなる彼。そんな彼の前に現れたのは、朝美の身体を乗っ取った別の世界、量子力学が百年単位で発展した世界の朝美。 彼女は言う、この世界を元通りにする鍵は秀渡であると。

 

世界を渡り往く「跳躍者」として。多数の世界の統合に立ち向かう中、身の回りに現れるのは潜んでいた別の世界からの刺客達。明らかになるのは、アイドルを演じる朝美の思い。 渡り往く先に大切なものを守り抜くために、追跡者との追走劇の中で何度も大切なものを失いながら。その先、激突するのは幾多の世界の自分達。その先に明かされる、彼にとっての本当の世界が何処であるのか、という事。

 

「せいぜい、生きてくれよ。 収縮された『俺』たちの分まで」

 

「ずっと好きだった。俺と、付き合って欲しい」

 

道の先は暗闇、それでも行く。唯一大切な彼女のいる扉にたどり着くために。幾多の自分を重ね辿り着いた本当の世界で。また彼女と巡り合い、見果てぬ未知へと歩き出していくのだ。

 

そんな、粗削りながらも奥深い面白さのあるこの作品。混沌に一本線を通した青春を楽しんでみたい方は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 多元宇宙的青春の破れ、唯一の君がいる扉 (MF文庫J) : 眞田 天佑, 東西: 本