読書感想:不殺の不死王の済世記

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突然ではあるが画面の前の読者の皆様、貴方は世界平和を作り出せと言われたらどんな方法を取るだろうか。その方法は誰かの犠牲を伴うものだろうか。

 

この作品、大別するならファンタジー世界の片隅、自然の要塞に囲まれた片田舎の国の片田舎の村から物語は始まる。

 

但し、数百年前に滅んだ筈の伝染病により僅かな子供達を残して壊滅しかけているという世紀末な状況であった。そしてヒロインであるミラ(右端)を救ったのが謎のアンデッド、テリオス(左端)である。

 

このテリオスというアンデッド、子供しかいない村で何をやらかすのか。

 

そう思い紙面を捲ると、何故か意外な程に善良な行いを始めたのである。

 

死体を火葬で始末したかと思えば、その骨をゴーレムとして労働力へと変えたり。

 

村の周りに住み着いたゴブリン共を駆逐したかと思えば、子供達の教師となり数学や文字を教えたり。

 

では、そんな彼が不思議な黒猫と共に行おうとしているのは何か。それは世界征服である。

 

しかし、彼の征服の為の政策は痛みも死も伴わぬもの。まるで少しずつ浸透させていくかのように、よりよい世の中、人が理不尽に死なず殺されない、千年続く平和な世界を目指す政策だったのである。

 

そう、千年である。人の世はいつも争いに満ちており、名君の後にいつまでも名君が続くとは限らない。だが不死であるテリオスであれば、ずっとその地位に就くことができる。

 

そんな彼が目指すのは、労働の軽減から始めて魔術師が支配するような世界へと変え、国を統一し平和を押し付けるという、言うなれば迷惑な善意の押し付けである。それは正に魔王の所業である。しかし、彼はそれを為そうとする。何故か。

 

それは、かつてテリオスが平和を目指し道半ばで力尽きた後悔を持つから。そして人間が大好きだからである。

 

そう、これは死しても尚蘇り、夢を叶える為にもがき続ける不器用な男のお話であり、彼に見いだされた少女が世界を広げ、成長していくお話である。

 

「貴方が人を殺めたら、私は夢を諦めます」

 

一種の運命共同体として、エゴのままに進む骸骨と少女は平和へたどり着けるのか。

 

ちょっと重くて苦い、重厚なファンタジーが読みたい読者様は是非。きっと満足できるはずである。

 

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