読書感想:路地裏で拾った女の子がバッドエンド後の乙女ゲームのヒロインだった件

 

 さて、時に路地裏と言うのは街に存在している訳であるが、路地裏というのは表とは全く違う景色を持っていたりする訳であり、隠れた名店的なお店も存在している訳で。そんな場所に憧れを抱かれたり、心惹かれたりするという読者様もおられるだろう。しかし路地裏、と言う場所は時に治安が悪い場所だったりする訳で。そういう意味では入ろうとするならば、注意はしてから入るべきなのかもしれない。

 

 

と、まぁ路地裏という概念から語り始めた訳であるがこの作品も、路地裏という場所から物語が始まる。ラブコメの幕が上がるのだ。

 

「絆の魔法と聖なる夜会」、通称「キズヨル」と呼ばれる乙女ゲーム。特別な魔法を使えるからこそ、特例で王族や貴族のみが通える王立魔法学院に入学した平民の少女、フィーネ(表紙)を主人公に、四人の攻略対象を攻略しレベルを上げ、封印から解放された魔王を討伐するのを目標とするゲーム。しかしこのゲーム、どの攻略対象の友好度も一定に達せず、友人キャラとの友好度も低いと辿り着いてしまう、やけに手の込んだバッドエンドルートが存在した。これによりこのゲーム、実は鬱ゲーとして作りたかったのではという推測が立ち、賛否両論を集めた。 そんな世界によく似た世界、原作ではモブでしかない、この作品としての主人公、アッシュ。貴族の中でも最下位な男爵家の次男、というかなり弱い立ち位置のせいで半ば放逐のような扱いを受ける彼。しかし彼の中にはこのキズヨルの知識があったので、冒険者となり独り立ちしても十分なステータスと金を得ることが出来ていた。

 

「おい、こんなところにいたら風邪をひくぞ」

 

そんなある日、学校からの帰り道。路地裏で出会ったのは、ボロボロのフィーネ。放っておけず上着を貸した事で自身は風邪を引き。後日上着を返す目的でやってきた彼女に看病され。後日絡まれていた彼女を助けた事で、今フィーネはバッドエンドルートに乗ってしまっていると気付く。

 

「だったら後は、戦って勝つか負けるかだけだ」

 

彼女の話を聞き、王子であるアルベリヒの婚約者となったエリーゼ、という原作では聞いた事もない少女を虐めていたという濡れ衣を着せられたと知って。彼女の瞳の奥、まだ戦意が燃えていると気付いて提案したのは、戦う覚悟はあるのかというもの。彼女を勝たせると言う決意のもとに手を伸ばし、フィーネはその手を取る。

 

いわば、今フィーネは原作では存在しない本当に最後のセーフティネットに拾われたようなもの。助けると決めた、ならばやるべきは一つ。フィーネ自身の力を伸ばす形の稽古を付けつつ、情報収集。その中でエリーゼもどうも転生者らしいと気付き、容赦する必要はないと決意を固める。

 

事実無根の噂、覆すために挑むは二対四の決闘。誰もが多数の勝利を信じている。だが、アッシュに負けるつもりはなく、負けられぬ理由もある。国の宝である宝剣を持ち出してきたアルベリヒをぶん殴って勝負を決め、フィーネを救う事に成功する。

 

 

「アッシュさん。その管理人の仕事ってわたしにもできますか?」

 

家の管理人としてフィーネも同居する事になり。更には宝剣を取り戻した功績で勲章と爵位を渡され。権力闘争に巻き込まれる気配を感じつつ胃を痛めながら。試験勉強をしたり、二人でドレスを買いに行ったり、と仲睦まじい日々を過ごして。

 

「そのドレスを活躍させてあげるために」

 

だが、事態は此処できな臭さを増していく。叙勲のパーティーの夜会、そこを襲撃してくるのは隣国のテロリスト。王都で騒ぎを起こすなんておかしい、と思う間もなく舞台はなだれ込む、戦闘パートへと。再び守る為に、彼女の願いをかなえるために戦って。その最後、月夜の元でダンスを交わして。

 

その裏、蠢くのは妙な者達の思惑。只のラブコメ、には終わらない何か面倒そうな事態が始まっていくのである。

 

蓋を開ければ意外と世界観が分厚く、ファンタジーとしての面白さもラブコメの甘さもあるこの作品。ファンタジーもラブコメも楽しみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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