読書感想:僕はライトノベルの主人公

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様はもし、ライトノベルの主人公になれるとしたら、どんなラノベの主人公になりたいであろうか。例えばファンタジーの世界で魔法を使ってみたい、という方もおられるかもしれないし、ラブコメの世界で可愛いヒロインといちゃらぶしたいという方もおられるかもしれない。しかしよく考えてみると、主人公ってそれなりの資質が要るのかもしれない。そう考えると人間は自分自身、という物語、多分平凡な物語の主人公が関の山、であるのかもしれない。

 

 

と、まぁ夢の欠片もない話は置いておいて。この作品は青春×メタフィクション、なラブコメであるそうだ。この作品のように、紙面という舞台を生かしたトリックをいかした作品は確か過去に一、二作品は見た事がある気がする。だがそれだけ、自慢でもないが七千冊以上ラノベを読んできてそれだけしかない。という、物凄く稀有なお話なのである。

 

「私のために、主人公になってくれないかしら?」

 

とある地方都市に存在するごく普通の高校、神立高校。ここに通う、ごく普通の純文学の読書が大好きなだけな、平たく言うとラブコメの典型的主人公的モブ、公人。ある日彼に声をかけてきたのは、完全無欠のスーパースターが如き学校一の人気者、千尋(表紙)。いきなり声をかけてきた彼女にお願いされたのは、主人公になって欲しいと言うよく分からん依頼。 聞いてみるとどうも彼女はこの世界を物語の様に楽しいものにしたいと願っていて、自分から面白くしていくためにメインヒロインになる事を望み。かつて自費出版で一冊本を出した彼、その作品のファンだからこそ彼を主人公に選んだ。その思いをぶつけられ、彼らしくない行動でそれを承諾し。彼女が作った部活、「超文芸部」へと誘われる事に。

 

彼女により集められたのはとんでもない連中。「マスコット」役の電子生命体、ミカコ。「サブヒロイン」役の没落社長令嬢、まりあ。「コメディリリーフ」役の千尋のファンクラブ会長な中二病のシド。そこはかとなく不安を感じながらも彼の作品の展開、七不思議編をなぞってみるという活動に付き合わされ。だが七不思議が如く人体模型が動き出し、部員たちがそれぞれの異能的な力で解決すると言う事態に行き当たる。

 

「どうやらこの世界は僕らの想像よりも摩訶不思議なことで溢れてるみたいだね」

 

その状況に本当に自分でいいのか、と悩む彼の元に現れたのは「僕はライトノベルの主人公」、という謎のラノベ。それは自分の行動をリアルタイムで記した本。

 

「じゃあ、本当に、この世界は『物語』で、僕は登場人物に過ぎないんだな」

 

それより教えられたのは、この世界が物語、自分達は登場人物に過ぎず。願った事を現実にする千尋の能力、「気まぐれな神の打鍵」によって様々な事態は生み出されたということ。千尋自体が望んでいるのはラブコメ展開、故にこの物語を「完結」に導いてくれと頼まれて、託されてしまう。

 

しかし平穏なんて彼には待っていなかった。千尋の望みのまま、襲い来るのは異常事態。世界は急にころころ変わっていくし、予想外の外敵にも襲われて。物語に干渉できる、部員たち三人の手を借りたりして奔走する中、千尋もまた自身が原因であると知る事となり。

 

「僕が、このライトノベルの《主人公》だからだ」

 

彼女により訪れるのはリセットの危機。乗り越えるために今こそ導くべきは、この三流ライトノベルを無事に完結させる完全無欠の結末。それを引き寄せられるのは自分だけ。そう胸に秘め、自分自身の全てを賭して飛び込んでいくのである、物語の中へ。

 

この作品、言うなれば何流? そんな評価をするべきではないかもしれないし、三流と言われる方もおられるかもしれない。しかし私はこう言いたい。 類を見ない没入感と見慣れぬ面白さを齎してくれるからこの作品は、一流であると。

 

そんな、見た事無い面白さを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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