さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は、「深夜に次郎系ラーメン」、というワードを聞いてどんな言葉を連想されるであろうか？ しかし連想される前に考えてみてほしい。 深夜に次郎系ラーメン、どう考えても健康に関して言えばよくない。しかし言葉として魅力を持っている。言うなれば、いけないのに、どうしても惹かれる。そこにあるのは背徳、という言葉であるのかもしれない。
そう、背徳なのである。深夜にがっつりと飯を食う、もしくはカロリー制限をしている時に、カロリーをがっつりと含んだご飯を食べる、というのは背徳と言えるのかもしれない。そんな背徳的な、美味しそうな描写が冴え渡っているのが今作品なのである。
「おなか、すいた」
居酒屋経営の両親がほぼ店に泊まり込んでいる事で、ほぼ一人暮らし。性格は極度の「お節介」。困っている人を見かければ最後まで面倒を見てしまうそんな少年、鈴文。彼はある日、隣に越してきた、不規則にしか家にいない少女、優月（表紙）が空腹のあまりぶっ倒れているのを目撃する。
「おかわりっ！」
「私は、鈴文をファンにオトす」
「俺は、優月をメシ堕ちさせる」
何故そんな事になっているのかと言うと、国民的アイドルグループの絶対的センターである彼女は、「仕事」のため完璧なアイドルであるために、厳しい食事制限を課していたから。当然、カロリー爆弾なメシなんて論外。しかし鈴文の作ってくれたメシを食べ、あまりのおいしさに速攻陥落し。自身の体裁を取り戻すためにも、お互いの心を賭けて勝負をする事となる。
ファンに堕とすべく、ぐいぐい攻める優月。彼女を支えたいと言う思いもありつつ、自分のメシで胃袋を掴まんとする鈴文。何かがおかしい気がしないでもない二人の勝負は、優月のファンである担任、百聖や鈴文の自称姉の幼馴染、莉華を巻き込んだりしながら。腹の減ってくる料理と共に、繰り広げられていく。
そんな中、勝負という建前を越えて育っていく、お互いの中の小さな思い。それはアイドルとしての自分にとっては、避けるべきもの。だからこそ引き離そうとして、けれどその寂しさは埋められなくて。
「だからお願い。これからも、私におせっかいを焼いて。私が遠くに行きそうになったら、何度でも引き留めて」
そう、例えアイドルとしての自分として、自分としての自分を押し殺して、皆を幸せにしようとしても。結局そこに自分が入っていなければ、本当の意味で幸せにする、完璧とは言えぬ。なれば自分を甘やかせ、肯定せよ。そのためのもの、彼女をこの世界に繋ぎ止める鎹こそが、鈴文のメシ。いつの間にか大切になっていたものを思い出して。彼女はまた、完璧へ向かって走り出すのだ。
読んでいるだけで腹が減る中、ちょっとコミカルな独特のラブがあるこの作品。揚げて転がるようなラブを読んでみたい方は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 俺の背徳メシをおねだりせずにいられない、お隣のトップアイドルさま (MF文庫J) : 及川 輝新, 緋月 ひぐれ: 本
