さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様は「ぼくのなつやすみ」というゲームを御存じであろうか。かのゲームは確か田舎を題材にひと夏の時間を描いた作品であるが、田舎というのは独特の穏やかな時間が流れているものである。のんのんびより、辺りを見てもそんな空気感が分かるかもしれない。この作品はそんな田舎を舞台にした作品であり、十日間の間の心温まるお話なのである。
「儂ずっと、ずっと悠護のことを待っとったんじゃぞ!」
祖母が暮らす田舎へと、十二年振りに帰省を果たした少年、悠護(表紙中央)。あまり覚えていない田舎の光景、記憶の面影とはだいぶ変わってしまった祖母。そして彼を待っていたのはもう一人。かつてこの田舎にいた時保護し、その後天寿を全うしたスズメの幽霊、チュン(表紙左)である。
彼女はスズメ、その筈なのになぜ人間の姿を取っているのか。それは彼女がハザマと呼ばれる存在であるから。人間と動物、死者と生者の狭間で想い遺しによりこの世に留まる存在。その中でもチュンは特別な存在であるからか、次々とハザマから相談を持ち掛けられ。唯一チュンの事を認識できる悠護はその手伝いをする事となるのである。
「俺も、ちゃんと話をしてみなきゃダメだなって・・・・・・」
助けてくれた人間に淡い思いを抱き、その助けとなりたいと思った燕。数十年にわたり彷徨う子供の霊を助けたいと願う狸。自分の死を受け入れられず壊れてしまった飼い主を心配する犬。かつての幼なじみ、えりな(表紙右)と家族の軋轢を心配する黒猫。
成仏させる事が救いとなる、その為に必要なのは語らう事。全く未知の相手の情報を探り、手掛かりを求めて田舎を駆け回り。そして想い遺しを導き、縁を繋いで結ぶ。その積み重ねの中、悠護もまた自らの家族、母親と向き合う事を決める。獣医になりたいという自らの夢に断固反対の立場を取る彼女の真意を探り、それを受け入れてそれでも貫くと言う覚悟を見せる。
・・・けれど忘れてはいけない。ハザマとは成仏する事が救い、それは特別なハザマであるチュンもまた同じ。チュンの心残り、その根底に絡みついていたもう一つの思い。それもまた果たされ、チュン自身の想い遺しも満足し。約束していた、けれど覚悟は出来ていなかった別れが訪れるのであった。
『悠護って昔から、ちぃと鈍いところあるよな・・・・・・』
けれど、涙したとしても進んでいく、歩いていく。出会いと別れの先、歩き出していく悠護。彼を待つのは新たなお話のプロローグ。それはきっと、ステキな青春のお話なのだろう。
独特の温かさと優しさが心に沁みる、癒し効果のあるこの作品。どこか懐かしい空気を味わいたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
居残りすずめの縁結び あやかしたちの想い遺し、すずめの少女とお片付け (ファンタジア文庫) | 福山 陽士, にゅむ |本 | 通販 | Amazon