読書感想:帝国第11前線基地魔導図書館、ただいま開館中

 

 さて、本と言うのは当然読むものである。そうあって欲しいものであるが、例えばファンタジー世界には「魔導書」なるものが存在する、というのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。そういった書は、言ってしまえば戦う為の本である。では本とは、読書とは本当の意義とはどんなものなのか。その辺りにも触れていくのがこの作品であり、重厚で骨太な戦乱が描かれるのもこの作品なのである。

 

 

人類側の「連合軍」、そして魔族の連合である「魔王軍」。二つの軍勢の戦いが長きに間続くとある異世界。 戦争は人々を疲弊させ、同時に時代の変化と技術の変革を齎し。長き戦乱の中、人々の中から魔力は失われ。人々は、「勇者」や「魔導具」といった一部の神秘を頼りに、鉄と火を主力とした軍隊により戦いを続けていた。

 

「図書館においては人間の立場は本より下。命以外はね。お分かり?」

 

そんな世界の帝国、帝国軍第十一前線基地。魔族の侵攻ルートになり得るそこに派遣された一人の司書。その名はカリア(表紙)。本を愛するがあまりムカつく雇い主をぶん殴ってしまった事で、職を失った彼女は、馴染みの友人であった皇女の推薦によりその基地へ派遣される。そこで見たのは、モラルの崩壊した、前線基地の図書室。無論カリアにとっては逆鱗に触れるものであり。規約違反をしていた兵士三人を図書係として巻き込み。規約違反には鉄拳制裁、更には規約の周知と延滞への容赦ない取り立てで。少しずつ図書館はモラルを取り戻し、戦場の図書館は兵士たちにとって、それぞれの落ち着く場所となる。

 

しかし、戦場は待ってはくれず、全ては薄氷の上。魔族の侵攻による危機、基地にやってきた人間側の勇者、アリオスによる救援も間に合わず。やむを得ずカリナは、この基地にやってきたもう一つの目的、修復した魔導書による力を放つも。何千と殺した、という傷はカリナの心に残り。それでも戦場の日常は続いていく。

 

容易く死ぬ者がいる、運よく生き延び戦場から去る者もいる。死兵となって、己が命を賭すものたちがいる。 そして魔族達もまた、己の命を賭けている。多種多様な軍勢を纏め、作戦行動を練りながら。人類を追い詰めようと、作戦行動の元に攻めてくる。

 

 

苛烈な攻撃の中、援軍はなく。魔導書もまた、その危険性が故に頼れるものではなく。その最中に始まる、魔族側の大攻勢。制空権を取られ絶望的な状況の中、勇者達別動隊に希望を託した絶望的な籠城戦へともつれ込んでいく。

 

「魔導司書であるあたしには権限がある」

 

その最中、カリアは自らの過ちの償いをする為に。自ら単独で、魔王軍の指揮官と向き合い、交渉を持ち掛ける。ハッタリと真実を織り交ぜたそれが齎すのは、この絶望に突き進む戦争の中の一つの成果。 只、本を愛する彼女が戦争と言う大河の中での抗いで掴んだものなのだ。

 

 

重厚で骨太、その中にメッセージがあるこの作品。本が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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