読書感想:第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記 I

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様はコードギアス反逆のルルーシュ、という作品をご存じであろうか。ご存じであると言う読者様も多分、それなりの数の方がおられるであろう。かの作品の主人公、ルルーシュは帝位継承権で言うとかなり下の方である。その理由と言うのも、父親である皇帝に妻が多すぎて、腹違いの兄姉がこれでもかという数存在しているからである。というのはさておき、このように玉座に就く者に子供が沢山いると言うのは、継承権問題が起きやすい、と言っても良いかもしれない。

 

 

ではそんな問題が起きにくいのは、どんな時であろうか。例えば日本の戦国時代を見てみてほしい。兄弟殺しの例なんて事欠かない。つまり、荒れている時代であれば下克上という言葉もある様に、実力こそが全て、と言えるのかもしれない。

 

 この作品における魔族もまた、そんな完全実力主義である。その魔族の中、魔王の七人目の子供として生まれた魔王子、ジルバギアス(表紙中央)。しかし彼は、単なる魔族、と言う訳ではない。

 

その正体、というよりかは前世は何と人間の勇者、アレクサンドル。魔族に故郷の村を焼かれ全てを失い、復讐のために戦い続け。そして魔王の強襲作戦を決行し、魔王に力及ばず殺されてしまった者である。

 

生まれて二年、徐々に知恵をつけ。その前に最初から、ジルバギアスの中にはアレクサンドルとしての怒りが渦巻いていた。それも当然であろう。心が人間である彼にとって、魔族と言うのは許せるわけもないのだから。

 

「俺はありとあらゆる禁忌に手を染める」

 

 だからこそ、彼は志す。魔王子として成り上がり、いずれ魔王国を滅ぼし全てを血祭りにあげる事を。この国の全てを滅ぼすと言う事を。悪魔との契約の為、訪れた魔界で契約した「禁忌」をつかさどる魔神、アンテ(ジルバギアス左隣)を味方とし。彼は人知れず行動を始める。

 

「お前たちの死は、決して無駄にはしない」

 

 けれど彼の前には様々な難題が立ち塞がる。文化や文字、更には得物の違いといった細々としたものも多いけれど、彼の心を最大に削るものは、守りたい人間達をその手に掛けてしまう事である。

 

殺し方を覚える為に、捕虜の兵士を殺し。母親であるプラティとの槍の訓練の中で、自身の傷の身代わりとして奴隷の人間達を殺し。必ず無駄にはしないと誓い、守るべきものを殺すと言う禁忌を侵す事で、アンテとの契約により魔力を獲得し。更にジルバギアスは力を高めていく。

 

そんな彼の元に舞い込んだのは、かつての仲間であるエルフの聖女、リリアナ(表紙奥)が生きていると言う事。しかし生きていると言っても最悪の状態であった。黒エルフ達により達磨にされ、実験材料として使われ。彼女の精神は崩壊してしまっていたのである。

 

『―――ひとりでも多く救ってみせろ』

 

彼女を前にし、自分は魔族として何を為すべきか。見殺しにすべきか。だがそれでも彼は、自身を勇者であると固定化し。一人でも多く救うために、彼女を救うために。自身をも禁忌に巻き込み、大立ち回りを演じて見せる。今生まれたばかりの「自分」に全てを任せて。

 

 

だが多くを殺し、一つを救っても。それでもまだ何も始まってすらいない。全てへの復讐は、まだここからなのである。

 

陰惨なダークさの中に骨太な面白さのあるこの作品。黒めなファンタジーが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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