読書感想:パーフェクト・スパイ

 

 さて、昨今の作品で言うとスパイと言えば某家族を連想される皆様も多いかもしれないし、007のような古き良きスパイ映画を連想される読者様もおられるかもしれない。では、パーフェクトなスパイとは一体何であろうか。どのような存在であれば、完璧と言えるのであろうか。

 

 

その答えは中々難しいものであるとして、スパイとは嘘をつくものであり、誰かを騙すものである。そしてこの作品は、そんなスパイの世界でのお話なのである。

 

現代日本に確実に存在する、闇に暗躍するスパイ組織、「気忍花」。しかし、地獄のような戦場での悪魔としか呼べぬ存在との邂逅により、何とか討伐には成功するも、組織は風魔小太郎(表紙奥)を除き、オペレーターであるすずめ(表紙左端)は数に数えず、所属するエージェントは一人だけという言わば瀕死の状態に至っていた。

 

そんな彼の元へ、部下として集められたのは各国から集められた精鋭である四人のスパイたち。日本出身のハッカーのハート(表紙左から二番目)、イタリア出身のマフィア出身、アルマ(表紙中央)、ロシア出身の研究所出身のスノー(表紙右から二人目)、そしてイギリス出身であり魔術を使えるラビット(表紙右端)。

 

「スパイである以上、どんな状況にも対応できるよう、手数は多い方が有利です」

 

すずめの提案により、人員不足を補うためにハニートラップを指導する事になり、更には生活能力はてんでダメなスノーと小太郎が同居する事になったり。慌ただしい日々は始まる中、始めに簡単な任務を受ける中でアルマを小太郎が助けたり、ハートと共に行動したりと、少しずつ絆を築いていく。

 

―――だが、この光景には裏がある。綺麗なバラには棘があると言わんばかりに、彼女達は秘めた過去と秘めた愛憎を持っている。そして、彼等の近くには各国のスパイ組織を潰して回っている謎の人物、ノーフェイスが迫っている。

 

彼女達が秘めているのは、それぞれ「風魔小太郎」という存在への憎悪と、復讐心。ノーフェイスが秘めているのは、「気忍花」という組織の一度目の壊滅に関わる「悪魔」に関係する、複雑な感情。

 

その全ての中心に小太郎は晒され、憎悪を向けられる存在として殺意を向けられ命を狙われる。

 

「今さら、言うわけがないだろう」

 

それは彼個人に対して、向けられるべきものではない。だけどそれでも、彼は背負う事を選ぶ。その名を背負う事を選んだときから覚悟をしていると告げ、その上で敵として狙われる事を望む。

 

この作品は、スパイ世界を舞台にしたラブコメ、という訳ではない。ラブコメにしては物騒すぎる、けれどそれでも軽く描かれているからこそ気軽に読める作品なのである。

 

ぴりついたラブコメが読みたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

パーフェクト・スパイ (電撃文庫) | 芦屋 六月, タジマ粒子 |本 | 通販 | Amazon