前巻感想はこちら↓
読書感想:スパイ教室04 《夢語》のティア - 読樹庵 (hatenablog.com)
さて、このシリーズは最強敏腕スパイである師匠に導かれるスパイ見習の少女達が、それぞれ成長していく、スパイものとしての面白さが見所であるのはこのシリーズを楽しまれている画面の前の読者の皆様であれば、もうお分かりであろう。しかし、何か忘れてはいないだろうか。そう、この作品、ヒロイン候補はきちんと存在している。そして、その部分が仕方ないとはいえ、ほぼおざなりになっているのである。
そして、スパイ見習の少女達は、青春真っ盛りの少女達である。色恋沙汰の一つだってあり得るし、その相手となり得る相手はそこにいる。
つまりはこの短編集はそういう事である。しかし、彼女達がただラブコメをやるわけもなく。どうしても彼女達らしいぶっ飛んだ方向になってしまうのである。
「―――ボスとわたくしとの婚姻届を提出します」
「そこだけ切り取ると、正気とは思えない発言なの」
始まりは、まだクラウスのみで任務に向かっていたころ。切っ掛けはいつもの訓練の一環。クラウス攻略のパターンを増やす為、戸籍上の妻になる事を目論むグレーテがクラウスが二か月前、十八歳の少女と結婚していたという事実を知った事。
当然、放っとく訳にもいかず。仲間達の中で始まった、花嫁探しの会議でまず初めに怪しまれたのは「百鬼」のジビエ(表紙手前)、「草原」のサラ(表紙右奥)。
ジビエは語る、語られていない話はクラウスと共に巻き込まれたスリ騒動。サラが語るは、クラウスと少女達で繰り広げた屋敷の修繕バトル。
その中で垣間見える、クラウスの誰も見た事のない素顔。孤高に見えて指導には真剣だったり、動物にかじられて柄にもなく強がってみたり。
更にはモニカが帝国潜入中の語られていない、自らの心に火を灯した事件を話したり。グレーテが、クラウスの愛するミートパイ屋に関する騒動、休息の十日間の中の出来事を話したり。
けれど、結局花嫁は見つからず。ならば自分達で決めてしまえばいいというリリィの提案により、少女達の花嫁ロワイヤル、騙しだまされるぶつかり合いは幕を開ける。
一体何をやっているのか、本編で語られていないけれどこんなことをやっていたのか。そう思わず苦笑してしまうかもしれない。
けれど、確かにそれも彼女達の青春なのである。
「もっと大人扱いしてください。スパイとしても、一人の女性としても」
激しく交差すれど何も失わない。得られていないように見えて得られている。そして、彼女達のそんな日々を見つめたからこそクラウスの中で変わるものがあり。
記されることのないその記録。けれど、確かにそこにあるのはラブコメ的日常なのである。だからこそ面白い。
ラブコメ的日常を見てみたい読者様。クスリと笑いたい読者様にはおすすめしたい。
きっと貴方も満足できるはずである。
スパイ教室 短編集01 花嫁ロワイヤル (ファンタジア文庫) | 竹町, トマリ |本 | 通販 | Amazon