読書感想:君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか?

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は「悪」とは何であると思われるだろうか。哲学的な問題になってくるので深堀はしないが、悪と言っても一口には言い切れぬ。様々なタイプがあるその概念は、ピンからキリまで色々あるのである。

 

 

では、印象に残る悪とはどんな悪であろうか。独自の美学を持っている、跪きたくなるタイプと答えられる読者様もおられるかもしれない。だが、一目見ただけで身震いするような、理解できぬタイプの悪というのも印象に残るかもしれない。

 

 この作品の主人公である誠司(表紙中央)もまた、「悪」である。文武両道の完璧超人でありながら、生き物の「魂の火」が見えそれを消すのが大好きという、人として何処か大切なものが壊れた人間である。

 

「―――ああ、ボクもいく」

 

魂の火が見えるからこそ、誰も自分には及ばぬと理解できる。故に本質的に孤独。だが彼に一つの出会いが訪れる。その名は拓真。破天荒ながらもかなりのインテリであり、誠司とは別の意味での天才。高校の入学式で出会い、瞬時に意気投合し。拓真の病弱な妹である香奈も交え、真の意味での友情を築いていく。

 

だが、その日々はある日終わりを告げる。香奈の自殺、墓前で拓真が問い詰めた誠司が犯人であると言う真実。その瞬間、彼は異世界の王国、インストリアル王国へと召喚され。宰相を務める第一王子、デュレルの右腕として。後継者争いの相手である第二王子、アシュレイを討つよう命じられる。

 

「―――素晴らしい。決まりですね」

 

 それこそは正に、誠司にとっては福音。殺人を求められる、この世界は正に楽園。デュレルの娘であるシンシア(表紙左)を一応の上官に、絶対に裏切らぬ奴隷としてオデット(表紙右)を傍らに。誠司の暗躍とこの世界の蹂躙が始まる。

 

一応の上官であり、誠司を制御する手綱の役割を与えられたシンシアは恐れおののく。人体実験すら平気で行い、倫理なんぞそれがどうしたと何でもない事のように人を手に掛ける誠司を恐怖する。

 

オデットは愛する。自分を助けてくれた彼を。何もかもを与えてくれた彼を、自分だけは愛そうと共にある。

 

そんな彼の前、立ち塞がるのはこちらも召喚され、アシュレイの配下として瞬く間に頭角を現した拓真。かつての友情に、憎悪を交え。今こそ止めねばならぬと、友情ゆえに刃を向ける。

 

だが、彼は一歩、想像が追いついていなかった。アシュレイもデュレルも、まとめて手玉に取るほどに彼の悪性はこの世界で極まっていたという事を。この世界という天地で花開いた彼の悪を。

 

「ボクは、君のことを―――親友だと思っている」

 

 そして、彼の中の怪物は香奈により解き放たれてしまったという事を。決着はいっそ呆気なく、だが切なく。唯一の親友、自分の介錯を頼める相手、そしてもう一人の怪物。大切な存在を手に掛け、誠司は踏み出す。本当の意味で解き放たれた、怪物としての道を。

 

もはや止まる事はない。デュレルの心を誘導し操り、国をその手に躍らせ。その魂の火は世界を飲み込まんと燃え上がる。

 

だからこそ、この作品の題名は。君はこの「悪【ボク】」をどう裁くのだろうか? という言葉の意味は。きっと彼からの挑戦状なのかもしれない。

 

この作品は人間の「悪」を描き出している作品である。これでもかと醜悪で歪で、結局相互理解できぬ悪を描いたお話である。だが、故にこそ面白い。昨今の生温さを切り裂くような、心に刺さる面白さがあるのである。

 

ひりつくような面白さを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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