読書感想:スパイ≒アカデミー 真実を惑わす琥珀

 

 さて、この作品のタイトルを見て、画面の前の読者の皆様は身も蓋もない事を言わせてもらうと、こう思われた読者様もおられるのではないだろうか。 ファンタジア文庫のスパイもの、と言えば既にアニメ化もされているスパイ教室が存在しているではないか、と。しかし安心して欲しい、十分に差別化は出来ているので。ではこの作品は何を軸に描いていくのか。それは、師匠と弟子の絆、そして弟子の愛である。

 

 

各国の諜報機関にその名をとどろかせる、伝説のスパイ、コードネーム、「蜃気楼」。しかし彼は影の世界の戦争に終止符を打つための任務で、その漏洩により失敗し。スパイとしては落ちこぼれな弟子の少女達を先に逃がし、自身は最後まで奮戦し、最後の時を迎えようとしていた。

 

「なら、まだ助ける余地はあるな」

 

しかし、彼は実は何とか生還していた。二年の昏睡を経て、上官であるリズに匿われていたセーフティハウスで目覚め、告げられたのは弟子である少女達が諜報部により使い捨ての駒として、敵国である帝国のスパイ養成機関に潜入させられていると言う事。リズの権限ではそれ以上の事は分からず。だが、それならばまだいけるという考えの元。「蜃気楼」は最低限の期間のリハビリを経て、エドガーと言う名で転校する形で潜入する。

 

「さっさと荷物をまとめて出て行って」

 

 が、しかし。早速潜入先で待っていたのは、それぞれの学科が銃撃戦で争い合う、超実力主義な朝の一幕。その中で再会したのは、それぞれの学科のエリートになっていた弟子の少女達。

 

琥珀」のカリン(表紙)、「柘榴石」のノイナ、「紫水晶」のコレット、「瑠璃」のミルフィ、「翡翠」のミア、「水宝玉」のシャロン、「金剛石」のアルマ。 しかし彼女達からいきなり敵意を向けられ、全ての男達を追い出した彼女達によりいきなり追い出されそうになる。 それもその筈、何故なら彼女達は「蜃気楼」の方針により、お互いの事すら知らず。それどころか「蜃気楼」時代のエドガーは、そもそも本当の姿を見せていなかったため、「蜃気楼」と気付いてもらえなかったのである。

 

 

しかし、錆びついてはいても彼にとっては余裕なレベルの銃撃戦、その中の行いで注目を集めてしまい。 一先ず同じ学科のカリンに、実力を認めさせ。互いに利用し合う、という建前の元に、機密資料を奪い合う定期テストのために協力し合う事となる。

 

「ソウダナー」

 

他の学科が同盟を組んでくる中、裏で暗躍してみたり、完璧な変装で二人で出かけたり。そんな中で知る、カリンの思い。 動物が好き、という変わらない部分。そして彼女にとってはデート、という認識であった銃の専門店へのお出かけ、という首を傾げそうな思い出。 師匠心にちょっとほろりとしたりしつつ、機密情報争奪戦は、エドガーとカリンたちの学科の独占状態となる。

 

 

が、しかし。 不意に訪れる暗雲。 すり替えられていた機密文書、その犯人は「蜃気楼」。 偽物の言葉に少女達は踊らされ、敵対する事となる。

 

「そんなことくらいできなきゃ、その名は背負えないんだよ」

 

 しかし、ここから先、きっと騙される事となるのだろう。彼女だけは分かっていた、だけど彼女は知らない。本当は師匠はすぐ側にいる、という事を。 そして「蜃気楼」は己に課された枷を解き放つ。 逆鱗のままに、その思いのままに。

 

 

ブコメを軸にしているからこそすっきりと読める、熱いバトルも楽しめる今作品。スパイものにとりあえず触れてみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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