読書感想:英雄と魔女の転生ラブコメ

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 前前前世と言うと、どのくらい前の過去になるのであろうか。という疑問はいったん脇において置き、画面の前の読者の皆様は前世の記憶を持つと思しき子供達が存在するというのはご存じであろうか。しかし、前世の記憶というものはどうやら時間の経過と共に薄れていくものであり、子供時代の間に忘却してしまうものであるらしい。では、転生と言うものは基本的にどんな状況で訪れるものであろうか。

 

 

画面の前の読者の皆様にとって転生とは、日本のような現代世界から異世界への転生と言うパターンがよく見慣れたパターンであるのかもしれない。しかし、時折ではあるが逆、異世界から現代世界への転生、というパターンも存在する。

 

 この作品は後者のパターンである。帰宅部に属する普通の少年、護道(表紙右)。彼の前世、それは異世界の英雄であるグレイ。そして彼の前、転校生として現れた少女、麻衣(表紙左)。彼女の前世、それはグレイの仇敵であり異世界を呪い混乱へと叩き込んだ「魔女」である。

 

「―――私は、貴方がいないと生きていけないのよ!」

 

しかし、麻衣は口にしたのは一種の請願。自分の魂は世界を呪った代償として未だ呪いに縛られたまま、このまま死ねば今度はこの世界が呪われる。だからこそそれを祓える護道の力が必要である、と。

 

かつて殺せなかったという負い目もあり、彼女に協力する事になり。数十年単位のスパンでの解呪へ挑む事になり、彼女と過ごしていく護道。

 

 時に幼馴染である比奈とテンプレ的なラブコメを繰り広げたり麻衣に構ったり。バイト仲間の沙耶とバイトを頑張ったり。そんな中、麻衣は護道の中の「歪み」を指摘し、二人はぶつかり合いすれ違っていってしまう。

 

魔法なんてさっぱり使えぬこの世界、それでも護道は自身が傷つく事を厭わずに、誰かを救おうと、守ろうと半ば反射的に、自己犠牲的に駆けだしていく。麻衣が前世からの「呪い」に囚われるのならば、護道もまた囚われている。「英雄」としての過去に、まるで呪いのように。

 

じゃあ一体、何のために彼女を救おうとするのか。救う理由なんて、もうないと言ってもいいのに。

 

「―――あんた、馬鹿でしょ」

 

悩み戸惑う護道の背を押すのは比奈の言葉。何故本心から救いたいと思うのか、そこで気付いた自分の気持ち。

 

「お前が俺の友達になってくれるなら―――俺は、お前だけの英雄になれる」

 

 だからこそ、彼はもう一度麻衣と向き合い、選び取る。「宿敵」ではなく「友達」として、運命共同体となる事を。彼女の重荷を半分背負う事を。

 

いつか問うた、関係性の変化があり得たか。それが実現したのがこの世界。理不尽極まりない世界ではなく、温かさに溢れたこの世界。だからこそ、またもう一度ここから。新たな形で。

 

シリアスみもあり切なくもあり。だからこそ、そんな要素がラブコメ部分の面白さを高めているこの作品。

 

複雑な味のラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

英雄と魔女の転生ラブコメ (講談社ラノベ文庫) | 雨宮 和希, えーる |本 | 通販 | Amazon