読書感想:私の初恋相手がキスしてた

f:id:yuukimasiro:20211220232811j:plain

 

 さて、この作品の著者であられる入間人間先生の代表作と言えば、という問いかけに対し「安達としまむら」を上げられた読者様と、「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」を上げられた読者様の間には、何かしらの明確な差があるのかもしれない。と、言う話はさておき入間人間先生は様々なジャンルの作品を手掛けられている訳であるが、「やがて君になる」のノベライズ、更には前述した「安達としまむら」のように、ガルコメ、もとい百合の描写も得意であられる、というのは画面の前の読者の皆様も何となくでもご存じであろう。

 

 

しかし、入間人間先生の描かれる作品は、中々に癖が強い、と言っても過言ではないのかもしれない。ではそんな入間人間先生が描かれるこの作品は、果たしてどんな作品なのか。

 

 まず初めにジャンルにカテゴライズするのであれば、この作品は「百合」の作品となる。しかし、入間人間先生の百合作品でもある「安達としまむら」とは決定的に違う所がある。それはこの作品が「不純愛」の空気を孕んでいる、という事である。

 

母親と二人、物置でもあった狭い部屋で生活する少女、空(表紙左)。何も変わらぬ筈だった日常はある日、帰宅した母親が二人の女を連れてきた事から唐突な変化を迎える。

 

 連れてこられた、自分と同級生だった少女である海(表紙右)。互いの母親の不在が多い事で、結果的に同じ時間を過ごす事になってしまい。家事の分担を決めたり、お互いのスペースを決めたりと、一先ず環境に適応するための準備を進めていく。

 

しかし、そんな中。空は海が何日かに一度、どこかに出かけていくことが気になっていく。聞いても教えてはくれぬ、しかし何故か彼女達の生活費は海が出しているらしいと言う不可解な状況。秘密を探る中知るのは、海が所謂「売り」をしているという学校での噂。

 

「でも、付き合うって言っても何も変わらないと思うよ」

 

 その噂は一面的に言えば正解、しかし相手は意外な者。海が収入を求める中、彼女を金で買ったのは「チキさん」と呼ばれる年上の女性。何処かミステリアスで、けれど何だかんだと優しくて。自分よりも年上である彼女に買われる中、気が付かぬ間に海の心の中に芽生えていた初恋の感情。 空に止められるように、いけない事だとは分かっている。けれど、それでもと。まるで荒れる海の中に落ちていくかのように、引き込まれていく。

 

彼女の初恋は成就の時を迎え、その時を目撃した空の心の中。彼女がキスするのを目撃した時、彼女自身の初恋が幕を開けていく。

 

ラノベよりは一般文芸と言っても通用しそうな、切なさと苦しさ溢れる中、入間人間先生にしか書けぬであろう鮮烈な味のあるこの作品。

 

入間人間先生のファンであられる読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

私の初恋相手がキスしてた (電撃文庫) | 入間 人間, フライ |本 | 通販 | Amazon