読書感想:その勇者はニセモノだと、鑑定士は言った

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 さて、例えば美術品の真贋、というものは普通の人間では分からない、若しくは分かりにくいものである、というのは恐らく普通の認識ではないだろうか。では真贋、というのはどう見極めるのだろうか。見極める為には、何が必要となるのであろうか。

 

 

その答えは私は本職の人間ではないので何とも言えないが。そのようなものの真贋を判断するには様々な情報と、そこにある僅かな痕跡等を繋ぎ合わせ総合的に判断するのが常である。

 

 と、いう前置きはさておき、一体何が言いたいのかと言うとであるが。この作品には「鑑定」という要素が非常に重要な要素を占める。では一体、何を鑑定するのか。無論美術品ではない。この作品で鑑定されるのは「勇者」である。

 

数百年ほど前、異世界の国、「ニッポン」から来た勇者が闇の軍勢を退け、七つの王国を救ったと言う古の伝説が残るとある異世界。今、この世界では再び闇の軍勢が蠢きだしたという噂が持ち上がっていた。

 

 が、しかし。それに対する新たな勇者が現れたのかと言うとそうではなく。今、この世界では「異世界手稿」なる謎の書物で「ニッポン」の知識を身に着け勇者を僭称する者達による詐欺が横行していたのである。

 

そんな世界の片隅、世捨て人でもある旅の鑑定士、ダウト(表紙中央)は神官見習の少女、ノーリーン(表紙左上)と出会い、依頼を受け。彼女を担当に、自称勇者達の真贋を見極めるべく、行動を開始し、自称勇者達と向き合っていく。

 

 聖なる光を操る勇者、未来を予言する力を持つ勇者(表紙右上)、小さき身に幾つもの力を秘める生意気な勇者。ある時は猫妖精の情報屋から情報を仕入れ、またある時は僅かな違和感と情報から推理を繋ぎ合わせ、真実を導いていく。そんな中、ダウトやノーリーンは、様々な思いに触れていく。

 

何故勇者を自称したのか、自称勇者達が抱える事情、彼等がそれぞれに秘めている思い。

 

ノーリーンが知らなかったダウトの過去、何故彼は自称勇者を毛嫌いするのか、そこに隠されていた理由。

 

そして、彼等のすぐ側で「異世界手稿」を武器に自称勇者達の裏で糸を引いていた黒幕、「勇者贋作師」の思い。過去の時代に残してきた、「誰か」への思い。

 

「見極めに行こうぜ、連中の―――陳腐な英雄譚を!」

 

 そんな思いがぶつかり交じり合うこの作品は、コメディでありファンタジーであり。そして同時に、「陳腐な英雄譚」なのである。ニセモノだけれど、一種の本物の思いを抱えた者達の何処か臭い、けれど面白い英雄譚なのだ。

 

笑えてちょっとだけしんみりしたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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