読書感想:俺の姪は将来、どんな相手と結婚するんだろう?

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 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様の中で特に大人であられる読者の皆様は、成長を見守りたい相手、というものはあられるだろうか。何かあったら助けたい、何か起きないか見守りたい。そんな思いを抱かれている相手はおられるであろうか。

 

 

子供は今は小さな手、だけどいつの日か大人を追い越していき追い越される側に回るもの。だとしても今はまだ、小さな存在である。そしてこの作品のヒロイン的存在は「姪っ子」である。ちょっと近い位置だけど、家族と言うほど近くな訳でもないけれど。愛を育んだら禁断の関係であり、どこぞの薄い本的な題材になりうるものである。そんなちょっと不思議で危うい立ち位置、そんな存在である姪との生活はどうなるのだろうか。

 

二十八歳、独身。婚活で苦戦中、無論彼女無し。ワンルームのアパートで生活しながら、部屋を仕事場として仕事に励む。フリーの映像編集者であり、様々な仕事を営む主人公、結二。この春、彼には新たな出会いが訪れていた。

 

だがそれは彼女のような色めく出会いではない。姉の娘である姪っ子、絵里花(表紙)。この春、めでたく高校一年生となった彼女が、防犯上の都合から、放課後は彼の家に来ることになっていたのである。

 

 さて、こんな始まりから綴られるのは何なのであろうか? 姪と叔父のもどかしい関係の恋物語だろうか。否。そういう訳でもない。この作品で綴られるのは、子供の「夢」、大人の「夢」。そして苦い「過去」である。

 

絵里花が抱えた過去。芸能界で天才として持て囃されるも、期待に押し潰され結ニの手助けとケアにより、立ち直ったと言う過去。

 

結ニの過去。かつて天才と呼ばれた同期の輝きを目の前にし、夢を諦め他の道を模索したと言う苦い過去。

 

中学からの友人と賑やかに過ごしたり、時に告白されたり。そんな中、何も持たぬ、心に空洞を抱えた絵里花は時に重い悩み、結ニは時に自分の思いを煙に巻きはぐらかしながらも、自分の仕事に向き合っていく。

 

何でもない時間を過ごす度、お互いの存在が欠かせぬ心地よいものとなっていく。そんな時間を積み重ねる中、絵里花はひょんな事から向かい合う事になる。かつての夢の残滓と、再び開こうとするあの世界への扉に。

 

演技するのは未だ怖い、どうしたって尻込みしてしまう。そんな絵里花の前、懸命に仕事に励む結ニ。

 

「私、またお芝居をしてみたい」

 

「だから、私にやらせて・・・・・・叔父さん」

 

 その背を見て、絵里花は自身の本心に気付く。本音に蓋をしているだけだった、何だかんだと理由を付けて向き合おうとしなかった。けれど無視できなかった、自分の根底で熾火のように燻る自身の本心に。その本心を真っ直ぐに伝え、再び舞台へと上がる絵里花。その輝くようなエネルギーの奔流は、結ニの心の中、大切な所に届いていく。

 

疑似家族的な温かさ、そして大人も子供も対等であれる真剣勝負なお仕事の熱さ。何処か普通とは違う、読み応えのある面白さのあるこの作品。

 

お仕事ものが好きな読者様、ちょっといつもとは違う作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

俺の姪は将来、どんな相手と結婚するんだろう? (GA文庫) | 落合祐輔, けんたうろす |本 | 通販 | Amazon