読書感想:大罪ダンジョン教習所の反面教師 外れギフトの【案内人】が実は最強の探索者であることを、生徒たちはまだ知らない

f:id:yuukimasiro:20210713233550j:plain

 

 さて、画面の前の読者の皆様に先輩や上司と呼ばれる存在は恐らくおられる事であろう。まずは皆様、前提として話しておきたいが、人を見るうえで大切なのは外面ではなく内面である。例え接してくる口調が悪かったりしても、大切な見るべき部分はその本心である。なので皆様もどうか人を見る目を養っていただき、適切な先達との付き合い方を見出していただきたいものである。

 

 

さて、まず舞台解説を簡単にしておくが、この作品の舞台である異世界には「大罪ダンジョン」と呼ばれるダンジョンが存在している。それぞれが大罪の名を冠した七つの階層から形成され、入ればスキルが得られ、更には浅い層を探索しているだけでも適切な稼ぎ方をすれば一生暮らしていけるダンジョン。だがそこを探索する為には国から認められた教習所に通い、免許を得なければならない。

 

そんなダンジョンの教習所の教官を務める青年、デイル(表紙中央)。彼は控えめに言ってロクデナシの類であり、あまりのいい加減さに生徒でもある同僚、モネ(表紙左)から溜息を吐かれたりしながら割と無気力で自堕落な生活を送る「反面教師」と言われる教官である。そんな彼はある日、上層部からの差し金で魔物を殺せぬ異端の探索者見習の少女、アレテー(表紙右)を指導する事になってしまう。

 

彼女の夢、それは「深淵」を目指す事。そこは死者蘇生すらも叶う正に夢のような場所である幻の八番目の階層。決して存在しない筈、だがデイルも過去に辿り着いたことのなる階層。

 

 見果てぬ、笑われても仕方のない夢。だがそんな夢を真っ直ぐに語り、無気力に、露悪的に振る舞うデイルに根気よく師事する彼女。そんな彼女と接するうち、彼の心に燻っていた火種が少しずつ、燃え上がっていく。まるで枯れ木に火が灯る様に。

 

「安心しろ。そして誰にも言うなよ。お前の教官は、実は強いんだ」

 

その火は、アレテーと共に堕ちた第四階層、灼熱が彩るフロアで本格的に燃え上がり、彼の本領が目を覚ます。その本領は最強の一角。あらゆる手段をとれる様々な道具と言う手札と自分が取るべき行動の幻像が見えるというスキルを組み合わせた、勝利へと自身を導く最強の力。

 

その危機を乗り越えた先、ダンジョンの中でのアレテーとの語り合い。完全に故人を取り戻すまで何度でも深淵に挑むと言う、一種の狂気にも似た彼女の決意。

 

 その決意は、かつて深淵に辿り着くも不完全な結果しか得られなかったデイルに光を灯す。もう一度、そこへ。叶わないなら何度でも。その可能性は残像として彼の目の中に。だから彼は決意する。もう一度、最強に戻ると言う事を。

 

人を意地悪く揶揄いながらも時に微笑む、趣味の悪いダンジョン。そこへ希望を持って挑んでいく若者達。若い光に背を押され、また歩き出す大人達。

 

未熟だけど真っ直ぐに熱い光と、不格好だけど磨かれた光。そんな二面的な面白さのあるこの作品。

 

ダンジョンものが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。