読書感想:飛び降りようとしている女子高生を助けたらどうなるのか?

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 さて、もし画面の前の読者の皆様が自殺するとしたらどう自らの命を絶ちたいであろうか。電車に飛び込むと迷惑がかかる、ただ飛び降りると痛いかもしれない。が、沙希にお伝えしておくと死んでも何にもならないので、自殺なんて選ばないで欲しい。あと考え方によっては、自殺も殺害数1とカウントされ地獄送りになるらしいので、地獄送りになりたくない方は精一杯生きてほしい次第である。

 

 彼女が欲しい、とても欲しい。そんな願いがある日突然に、この作品の主人公である祐介の中に湧き上がると共に彼は今、寂しさを覚えていた。何故ならば彼は、特待生であり続ける為に勉強とアルバイトのみに全力を過ごしていたから。

 

 普通の青春ではない日々が故に灰色の日々。そんな日々の中、彼は廃ビルの屋上から身投げしようとしている一人の少女を救う。彼女の名は小鳥(表紙)。どこかすべてに疲れたような目をした、今にも消えてしまいそうな儚げな少女である。

 

「私は・・・生きてる意味・・・・・・無いですから・・・・・・」

 

自宅に連れて行った彼女から漏れた、全てを捨てるかのような厭世的な言葉。

 

「死ぬくらいならさ、俺の彼女になってくれ」

 

 その言葉を聞いた途端、祐介の口から思わず漏れたのは告白の言葉。こうして唐突に、二人の恋人関係と同棲生活は始まるのであった。

 

始まりは小鳥からすれば意外なものであったかもしれない、祐介の申し出を受けたのも気紛れだったのかもしれない。

 

「こんなことで怒ったりするもんか」

 

だが、祐介は優しかった、無償の優しさと愛情を彼女に注いでくれた。誰よりも大切に、一人の女の子として接してくれた。そんな彼の優しさが、徐々に小鳥の心の傷をいやしていく。

 

「ちょっとな・・・・・・思い出したんだよ」

 

祐介もまた変わっていく。父親との苦い思い出が彼女との思い出に上書きされ、彼の世界は色鮮やかに変わっていく。

 

小鳥の私服を買いに行ったり、二人で買い物をしたり。だが、そんな優しい日々は唐突に終わりを告げる。祐介の近くにいた小鳥の父親、毒親の手によって。

 

親と出会えたのならばよいかと手放してしまった手。けれど気付く、彼女の本心。もう遅いのか、全ては。

 

「逆だ。生き方や夢にたどり着く方法なんていくらでもある。だがな、初白は一人しかいないんだよ。こいつと出会って灰色だった世界が色づいた。もう俺はこいつの作る飯食って寝る前にイチャイチャしないと調子出ないんだよ。だから替えなんか利かねえのさ」

 

 否。大切なもの、自分の全てを捨ててでも守りたい、大切なもの。それを守ろうとする男の手が届かぬ事なんてない。何においてもかけがえのないたった一人の彼女。その彼女を守る為なら、どれだけ傷ついても立ち上がれるから。

 

「俺がお前に幸せにされてやる。これからも俺を幸せにしてくれ」

 

彼がいたからこそ彼女の心の傷は埋められた。彼女がいたから彼の世界は、鮮やかな色を手に入れた。なればこそ、人はその出会いを運命的と言うのだろう。

 

 この作品は。心傷ついた少女と世界の色を無くした少年が出会い、恋人同士となっていく作品である。同時に、何処か欠落を抱えていた二人が、お互いでお互いの欠落を埋めていく作品であり、何処か子供っぽさが抜けなかった少年が守るべき者を得て「漢」になっていく作品である。

 

 だからこそ、染み入るように温かく、まるで春の陽のように温かい。時に傷つくことがあっても、確かな甘さと優しさが逆に際立つ。故にこのラブコメは面白い。万雷の拍手を私は送りたい。

 

ビターな展開もお好きな読者様、尊いブコメがお好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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