読書感想:けいたん。~ライトノベルは素敵なお仕事。多分?~

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さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。例えば某編集長殺しのような、ラノベ業界の内情暴露ものと言えばどんな作品が思い浮かぶであろうか。その作品達の中で描かれるラノベ業界という世界に、貴方は飛び込みたいと思われた事はあるであろうか。

 

尚予めお断りしておくが、この作品はあくまでフィクションである。講談社ラノベ文庫に所属される作家の方々や編集部の面々も登場するがフィクションである。誰がなんと言おうとフィクションなのである。大事な事なので三回言っておく。

 

童顔ではあるも既に二十歳な大学二年生の青年、拓哉(表紙右奥)。講談社ラノベ文庫の新人賞を受賞した彼は、編集者と連絡が取れなくなったという事態により編集部へ直接原稿を持ち込むべく、編集部がある駅へと来ていた。

 

が、しかし。彼は何故か広大な地下迷宮へと迷い込んでしまう。そんな彼の目の前に現れたのは、巨大なドラゴンというまず常識を疑うような光景であった。

 

ラッキースケベですか。ラッキースケベなら仕方ないのです」

 

絶体絶命の状況の中現れた、対物狙撃銃を携えたゴスロリ少女。彼女の名は阿賀凛子(表紙左)。講談社ラノベ文庫の新人編集者。

 

そしてドラゴンの正体、それは上位元素の物質変換能力をつい発揮し、変身していたツカサ先生であった。

 

・・・はい、何を言っているんだという画面の前の読者の皆様はツッコミを飲み込んでいただきたい。幾ら銃皇無尽のファフニールシリーズの作者とは言え、というツッコミは廃棄していただきたい。フィクションなので。

 

何故か学生の新人バイトとして勘違いされ、勘違いが解けたら講談社ラノベ文庫創刊二十周年(嘘)フェアによる多忙の為、凛子の下に新人編集者として就く事になり。

 

ツッコミが追いつかない程の怒涛の日々を過ごす拓哉は、次々と作者たちが巻き起こす常識外の出来事に遭遇していく。

 

ある時は、講談社タイガ所属の作家である実姉、天音と凛子とニリツ先生の所にイラストの催促に行けば女装させられ、ニリツ先生の世界に呑まれかけたり。

 

またある時は、榊一郎先生の元へ原稿催促に出向けば、有馬啓太郎先生(漫画家。「月詠」作者)を巻き込み、榊一郎先生から分離した女性原理、さかきいちろう(猫耳美少女。恐らくモデルは美少女文庫の方での名義)と丁々発止を繰り広げたり。

 

そんな常識が何度も崩れ去る日々の中、拓哉は作家の先人達の生き様に触れていき、作家として大切な事を学んでいく。

 

早く書く作者が偉いのか。書きたい作品を書くのが正解なのか。

 

「一定以上売れた作品が沢山書ければ、それだけで名刺が増えるし、寿命も延びる。スランプかなにかで売れない作品を書いてもうたとしても、蓄えがありゃあスランプを抜けるまで耐えられる。商業であれ同人であれ、お金貰って創作するってのはそういう事やで」

 

そして語られる榊一郎先生の持論。二十年以上、ヒット作を次々と生み出してきた先生だからこそ語れる、作家としての思い。商業作家としての支柱。

 

フィクションである為小気味よいギャグの溢れるファンタジー、然しその中にあるのは確かな制作論。この作品はそんな作品なのである。

 

異世界的な世界に触れてみたい読者様、メタ満載のコメディが読みたい読者様、作家という世界に興味のある読者様にはお勧めしたい。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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