前巻感想はこちら↓
https://yuukimasiro.hatenablog.com/entry/2020/06/10/235703
さて、上記の前巻の感想を読んでいただければ分かると思うが、一巻と二巻で一つの騒動は解決している訳である。では今巻では一体どんな話になるのかと言うと。声優にとって必要な事は何であろうか。その答えは一つ、お仕事である。
それもまた当たり前である。高校生ラジオという仕事はあれど、二クールアニメの主役を射止めている夕陽と違い、現在やすみには特定の仕事がない。そして仕事もなく売れない声優には何があるのか。その答えは一つ、引退と言う名の消滅である。
と、いう事で。三巻にしてようやくここから本格的に始まるのである。夕陽とやすみの声優としての側面の掘り下げが。
世間はそろそろクリスマス、そしてお正月。年末年始を迎え新たな年を迎えようとしている中、やすみは焦っていた。何故なら、いつも通りオーディションに落ちまくる日々であり、何の仕事もなかったから。
が、しかし。そんなやすみへとふとした切っ掛けから大きな躍進の切欠となるお仕事が舞い込む。その仕事は、夕陽が主演を務める神代アニメであるロボットアニメ、「幻影機兵ファントム」。その主人公の好敵手役となる初めて挑む役柄である。
意気込み駆けつけた収録現場。そこで出会ったのは、自分の憧れであるベテラン声優たちという大御所たち。
だがしかし。そんな場でやすみはまざまざと思い知らされる事になる。一流の声優であるというのはどんなものか。自分の力が、どれほどまでに足りていないのか。
「―――あんな姿を見せられて。そのうえ、言い訳まで聞かされるとは思わなかった」
不様を晒して、憧れの存在に怒られて。虚勢を張ろうとしたら、呆れられて失望されて。
どこまでも一流の壁は高くて。自分に足りないものをまざまざと見せつけられて。
「来週のあなたの演技、とても楽しみ」
それどころかまるで呪いのように、お前がこのアニメの出来を決めると突き付けられて。
だがしかし。それでも諦めきれない。そして負けたくない。負けたくない存在が今、現場と言う名の戦場で己の側に立っている。
「失望されたままではいられないから」
だからこそ、見返したいから立ち上がる。
「力になるわ、歌種やすみ」
負けられない相手にだって協力を仰ぐ。彼女なら全部わかってくれているから。
「ある。ずっと聴いてきたわたしだから、同じように演じてきたわたしだから、ラジオをやってきたわたしだから、わかる」
先を往く彼女は言う。呑まれるな、見せつけろ、突き抜けて見せろと。
その発破がやすみの心に届く時。それは覚醒の時。今までの殻をもう一度脱ぎ捨て、本当の意味で先を往く夕陽たちと同じステージに踏み込む。まさに突き抜ける瞬間が訪れるのだ。
負けたくないという熱さが突き抜ける熱さを齎し、成長の炎が熱を踏み込む。
きっとここから始まる声優としての本当の戦い。画面の前の読者の皆様もどうか見届けてみてほしい。