読書感想:声優ラジオのウラオモテ #07 柚日咲めくるは隠しきれない?

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:声優ラジオのウラオモテ #06 夕陽とやすみは大きくなりたい? - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で夕陽とやすみの合同チーム、「オリオン」と乙女率いる最強チーム、「アルフェッカ」の激突話が持ち上がり、今巻ではその対決の方向へと話がもつれ込んでいくのか、と言われるとそうではない。今巻の主役は二人の先輩であり、時に口悪く厳しくも何だかんだと見守る先達、めくるである。画面の前の読者の皆様、何故ここで彼女なのか? と言いたくなるかもしれない。だが今巻を読まれたのならば、寧ろこのタイミングしか無かったと思われるだろう。それは何故か。何故ならば、めくるは先を往っているように見えて、実は最初の位置から動き出せていない半端者だったからである。

 

 

 

無論、彼女は決して声優として未熟と言う訳ではない。寧ろ彼女は既にベテランの域と言える。では何故半端者なのか。

 

 それは彼女が限界ギリギリの「声優オタク」であるから。他の誰とも違う、「好き」を仕事にしているからである。

 

「だけど、そばでぐちぐち昔のことを言ってる奴がいたら、踏み留まるかもしれないでしょ」

 

彼女なりに、やすみと夕陽が藻掻くのを見てきた。拭えぬ過ちを抱え、それを抱え続ける事を決めた彼女達を見守って、敢えて嫌われ役に徹している。時に先輩として導きながらも、彼女達を見守っている。

 

「わたしは、その人たちに報いたいんだと思う」

 

仲間として、乙女に導かれる。時間を共有する中で触れる、乙女が新たに抱いた願い。全てを背負って進んで、日本一になると言う前を向いた願い。

 

「柚日咲さんも、もう新人ではありません」

 

 対し、自分はどうか? 「声優を活かす声優」という目標を掲げ、独自の立ち位置を築いているけれど、本当にそれでいいのか? 誰かを活かす、それは決して主役にはならぬという事。数少ない椅子を全力で取り合う、声優の世界に於いてそれで良いのか? 今までずっと、続けてきた仕事の打ち切り。声優界を去る仲間との最後の仕事。心折れ、それでもこのままではいけないと決意し。めくるは「声優」として、プロになろうとする。

 

「めくるは、憧れられる側じゃいけないの?」

 

だがそれは自分の根源、根本の否定だ。自身を否定する、それは魂の否定だ。彼女を心配する花火の策略にやすみと夕陽が協力し。めくるは自分の心を容赦なく突き付けられる。

 

「全部、背負うって決めた」

 

 大切なのは否定しない事、認める事。全部背負う事。杏奈という一人の声優オタクとして「めくる」という声優を認めると言う事。自分と自分を重ね、めくるは本当の意味で踏み出していく。己の意思で戦いの場へと飛び込んでいく。

 

そう、これで全員が歩き出した。故に全ての準備は整った。敵は強大、果たして問題児二人に勝機はあるのか。

 

シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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