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さて、前巻沙季は悠太の後押しで父親である文也との向き合いを乗り越えた訳であるが。対決が済んだのならば後は華の大学生活に向けて乗り越えるべきものを乗り越える事のみ。そう、受験である。年末から年越し、そして受験。二度目の冬、そして高校生活の終わりを描いていくのが今巻なのだ。
無論、大切な季節であるので二人の仲に何か進展が、という訳でもない。だけど少しずつ意識する、二人の関係性、その未来を。そして家族の崩壊の痛み、家族の大切さを知っているからこその感謝。その辺りを描いていくのが今巻なのだ。
『友達と顔を合わせるのも、あと数えるほどかと思うと惜しくって・・・・・・』
年末が迫る中、段々学校も自由登校となり。数えるほどしか生徒が来なくなる中、教室の方が勉強がはかどるから、と沙季と悠太は登校し勉強を続ける。
「年越しの音楽番組とか、どう?」
「うるさいのはちょっと」
あっという間に迎える年末、両親が石川の方にある綾瀬家の実家にご挨拶に、という事で家で二人で留守番する事になり。 年越しくらいは、と二人で蕎麦をのんびりと、サブスクで映画なんかも見たりして。二人してコタツで寝落ちし、悠太が見たのは未来の夢。沙季と夫婦になり、家族が増えたあり得るかもしれぬ未来の夢。
「ああ、卒業なんだって・・・・・・、起きたら、実感して」
「そんなになるのか」
「18年じゃ足りないよ」
年末を終え年越しを迎えれば待っているのは受験本番、そして卒業式。今まで通い、そして沙季との出会いの場、かけがえのない友達たちとの出会いの場となった学び舎との別れ。 当日、起きたら否応なく実感し、登校しながら二人で色々な事を話して振り返って。 級友たちとの最後の交流の場、法的には大人だけどまだまだ子供なんだ、としんみりしたりして。
「あの、これだけはいい機会だから言っておきたくて」
「うん。私も同じこと考えてた」
そして今こそ伝えるのは、受け入れてくれた家族への、一度きりの感謝。いい機会だからと伝えて、大学生活へ向けての準備も整って。今までは引っ張られるだけだった自分達が、今度は引っ張る、という成長の証を見せられるように、と。今度は自分たちから一歩、踏み出していくのだ。
淡々しんみりほのぼのと、高校生活最後の時を描く今巻。シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。