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さて、無事にアニメも完結を迎え少しだけ余韻も残りつつ原作勢にはそう言えばあの頃、悠太と沙季ってこんな空気感だったな、と少しだけ懐かしさも覚えつつ。原作の今では悠太と沙季はもはや家族、という恋人同士の距離感を飛び越えつつあるわけであるが。ここで画面の前の読者の皆様、こうは思われなかっただろうか。そもそも沙季、初対面の時に結構頑な、ではなかったか? と。仕方ない事かもしれないがやけに固くなかったか? と。その辺りに触れ、沙季が過去を乗り越えていくのが今巻なのである。
「悠太兄さんのせいじゃないから気にしないでくれると嬉しい」
十月、段々受験勉強本番の季節も迫りハロウィンの季節も迫る中。沙季の様子がどこかおかしい、何か落ち込んでいるようだ。悠太はそれを気にするも、近しい関係であるはずの彼女はそれを共有してくれず。バイトについての話もする中、遠巻きにする気もないと言わんばかりに悠太は知るために行動を始める。
「私、似てるなって」
義母である亜季子から聞き出せるところだけ聞き出し、後日沙季とデートに出かけ。そこで教えられたのは沙季の事情。別れた実父、文也。面会の時間は憂鬱なものであるも、亜季子の信用を落としたくないから合わない訳にもいかず。だが自分と似ている、という嫌な事実を突き付けられるという思いから、ナーバスになっていたのだ。
「逃げることも時には大事だよ」
この状態のまま送り出すわけにもいかぬ。しかしどうすればいいのか。そこで悠太が提案したのは、勉強合宿、という名目での親公認での家出。きっちり親にも説明し、強引に許可は事後承諾で取り付けて。二人で熱海のお宿へ、出かけていく。
「それを、確かめに行くつもりなんだよね」
二人で何気ない時間を過ごしたり、秘密で混浴したり、寝顔を見つめられたり。両親を交えぬ何気ない、兄妹、恋人同士だけの時間。その中で勇気は沙季の中に灯り。学校に行く前に少しだけ面会する事になり、悠太も離れた場所から見守る事に。
「会話をしてくれませんか」
上がり調子な文也、彼に向かい言いたい事を言えぬ沙季。それを俯瞰的に見つめてきた悠太が気付いたのは、文也の歪な部分。生きてくる中で大切なものを取りこぼしてしまっていた、それを見ぬふりで駆け抜けてきた。似ているのは自分、ならば何がいるのか。我慢できぬとばかりに横入し、沙季の想いを代弁して。それに背を押されて、沙季は自分の想いをやっと告げて。新しい道へ歩き出した父親に、改めてのさよならを告げるのである。
家族だからこその想いが光る、更に円熟する今巻。シリーズファンの皆様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。