読書感想:やり直し悪徳領主は反省しない!

 

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様はやり直したい過去、変えたかった人生と言うのはあるであろうか。その巻き戻せるタイミングに戻れるとして、果たしてちゃんと未来を変えれるのか自信はあられるであろうか。と、いうのはともかく。それを願い、もしそれを行ったりするとそれは「反省」、という事になるのではないだろうか。

 

 

こうしてればよかった、こうしたらよかった、その思いから始まるのは「後悔」、そこから繋がるのは「反省」であろう。そんな思いを抱いているのは、逆行ものの主人公達であるのかもしれない。反省から始め行動を変える、その先に名君と呼ばれるようになっていくのだが。タイトルにもある通りこの作品の主人公、フラッド(表紙中央左)は反省しない。しかし様々に噛み合って、結果的にうまくいくというコメディに仕上がっているのである。

 

「気持ち悪いんで離れてもらえます?」

 

「そんな辛辣な言葉もなにもかもが懐かしいっ!」

 

一周目の歴史では自身の出身である王国を滅亡させかけた大罪人でありながら、取るに足らぬ語る価値もない小物、と語られた彼。従者であるエトナ(表紙中央右)と共に処刑されたのも束の間、気が付けば状況は二年前、全てが始まる前に戻っていて。一先ずエトナもつれて出奔した途端、知ったのはエトナも一周目の記憶があると言う話。

 

「誰がやり直すかーーー!」

 

ではどうするか、やり直すか。そう聞かれてフラッドは迷うことなく答える、誰がそんな事するか、と。そも、裏で佞臣が状況を利用する糸を引いていたというのもあるが、彼自身どっちかと言えば自分が悪い事に気付かぬ無自覚な傲慢タイプであり。そもそも悪い事はしていない、と吼えて。彼は隠居して庶民になる為悪人のままに動き出す。

 

しかしそれが、結果的にいい事に繋がる。彼がやる事の方向性は、一周目の死因に繋がる不穏の芽を摘むと言うもの。まず初めに、自身の変質した魔法で領内の魔獣のボスを使い魔として従え、魔獣と不可侵条約を結び。後継者として自身を一周目で殺した反乱軍のボスの少年、カインを佞臣が監禁していた母親を助け出す事で味方につけて後継者として。更には迫っている飢饉の危機に、一周目で気に入ったジャガイモ食を普及させる事で領内の死者をゼロにする事に成功し。気が付けば彼は、王国内でも聖人として認識されていく。

 

「たとえ俺が死んだとしても問題ないだろう」

 

しかし、未来を変えてしまえば待っているのは別の未来。巻き起こるのは首謀者を別にした同じイベント、その裏に蠢くのは一周目では見えなかった謎の組織。その渦中へと、フラッドは心奮い立たせ挑んでいくのだ。大切なものを守る為。そんな彼は王国の王女であるフロレンシア(表紙左)、帝国皇女であるカリギュラ(表紙右)にも注目され。その善行は国外まであっという間に広がっていくのである。勘違いされるがままに。

 

 

そんな、アンジャッシュが奇跡的に噛み合って繰り広げられる根っこはコメディであるこの作品。くすりと笑いたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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