読書感想:私を選んで、あなたのキスで ~運命のカノジョは私だけ!~

 

 さて、時にラノベにおいては主人公、またはヒロイン、はたまた両方に前世、もっと言えば一周前の記憶があったりする作品もまぁまぁある訳であるが。前世の記憶、それは果たして本当に必要なものなのであろうか。例えば同じ時間軸を二周目、とかするなら前世の記憶は必要なものであろう。しかしもし、何もかもが違う世界の記憶があったのなら。前世の関係を舞台となる世界に持ち込むのはある意味無粋、と言えるのかもしれない。

 

 

だけとそれでも持ち込むなら、そこに伴ってくるのは運命的な繋がりとなるのかもしれない。前世での愛を今の生に持ち込むなら。それは正に宿業的繋がりと言えるのかもしれない。この作品はそんな宿業的繋がりを根底にした作品なのである。

 

平和主義者でだるだるな少年、俊斗。彼が悩まされているもの、それはふとした瞬間に襲い掛かってくる謎のフラッシュバック。青い蝶の群が羽ばたくヴィジョンと共に聞こえてくる、少女のような切なげな声。その声の主を幸せにしたいと思えど、それが誰かは分からず。そんなある日、彼を慕う後輩であり親友の妹、恵令奈(表紙右)に毎年五月に行われるお祭りに誘われ。二人で訪れ、花火を見上げている中で。頭の奥で鍵が開く音がして、かつての自分、とある王国の騎士、レオであった前世の記憶を思い出す。

 

「はい、私がフィオナです」

 

「そんなに早く答えを出していいのですかな?」

 

 

それは敵国の聖女、フィオナと許されざる恋人関係であった、という事。目の前にいた恵令奈に重なる彼女の面影、彼女が告白したのは自分は前世、フィオナであったという事。さてここでこの作品は大団円、などという訳でもないここからが本番だ。彼の元を訪れた前世で契約していた魔獣、ミリュビル。前世でフィオナを救う為にイレギュラーな形で力を貸していた彼は、その契約を果たせと詰め寄って来て。 程なくして彼の目の前に現れた転校生、瑠衣(表紙左)もまた、フィオナの魂の波動を感じる少女であった。

 

どういうことか、言うなればフィオナ、正確にはその候補者が2人。もし本物を間違えたのなら、片方を待つのは最悪な展開。何という事でしょう、前世で結んでしまった鬼畜な契約が回り回って彼に纏わりついてきたのだ。

 

ではどうすればいいのか、それ即ち本物のフィオナを探し出せ、という事。 しかし、思い出の花を知らなかったという事実が恵令奈は偽物ではないかという疑念を発生させ。瑠衣は瑠衣で、否定はするものの、思い出の花を知っていたり、と判断しきれぬ材料を匂わせる。

 

鍵となるのは思い出す記憶、だがそれは一筋縄ではいかぬ。思い出の品に近いものと、関連する行動で思い出される記憶は、フィオナとのものばかりではなく。それどころかレオの出生の秘密まで明かされたかと思えば、明瞭ではないノイズ混じりの記憶が混乱をかき乱す。

 

「―――ごめんね、来世では幸せになりましょう・・・・・・」

 

そして明かされるのは衝撃の過去。それは瑠衣が思い出さないでといったもの、いつも聞こえて来ていた声の真実。フィオナの裏切りによりレオは死を迎えた、という最期の記憶。 付随して聞こえたのは、それは大罪でありフィオナの我が儘、レオの絶望の為に何かの願いを叶える、というもの。

 

 

果たしてどういう事なのか? どちらかが偽物、それとも両方本物なのか? その答えはまだ分からぬ。しかしこれだけは分かる。謎の伴う、奥深くて一筋縄ではいかぬラブコメがここに始まったのだ。

 

考察のしがいがあるラブコメを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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