読書感想:孤高の王と陽だまりの花嫁が最幸の夫婦になるまで1

 

 さて、王とは孤高であるのか、という問いかけは、fateにおけるかの征服王がされた訳であるが。かの征服王のように、幾多の家臣と絆で繋がる王道か、かの騎士王のように周囲からの視線を一身に集め、しかし誰も本当の意味では傍にいない孤高の王道か。画面の前の読者の皆様は、どちらの方がお好みであろうか。その答えは各人それぞれの中にあるであろうが。人は一人では寂しい、というのはあるのかもしれない。

 

 

この作品は王様が主人公である。そしてかの王様は孤高である。寧ろ恐れられている。そのあまりにもな、暴虐に彩られた覇道により。という話である。

 

妾腹の子として産まれ、黒髪黒目であった為に忌み子として扱われ。流行り病により左目を失い、辺境に幽閉され。隣国との戦いに駆り出され、最後は国王で会った半兄すら殺し、王位について。

 

「この国に巣食う害虫どもを炙り出し、一掃するぞ」

 

青年、ウィルフレッド(表紙下)が王位について二年。舞台となるウインザー王国では粛清の嵐が吹き荒れ。国内の膿が次々粛清され、彼は「暴虐武尽の魔王」と恐れられる存在となっていた。

 

「陛下って噂に反して、実はかなり優しい人、ですよね?」

 

が、しかし。彼の事を「優しい人」と評する存在が一人。隣国のバロワより政略結婚により嫁いできた、事情により庶民育ちの王女、アリシア(表紙上)。底抜けに明るく、面倒見の良い彼女。そんな彼女の言葉に、他の者にはない真っ直ぐさを感じ。結婚生活が始まるのである。

 

呪われた自分の血を残してはいけぬ、と子供を望まず弟であるリチャードにいつか王位を、と願う彼。そんな彼の考え方をアリシアは怒る訳でもなく受け止め。彼女が夜食に作ってくれたポトフは、毎日食べたくなる味で。気が付けば、いつも一人で全てを抱え込んでいた彼の心に、彼女がするりと息づいていく。いつの間にか、その底抜けの明るさに救われていく。

 

しかしそこに水を差す影。アリシアを狙った、毒矢。その下手人はすぐ身近に。アリシアを狙われた事で怒りに駆られ、ウィルフレッドは法に則りいつも通りに、その手で下手人を処刑する。

 

「つらい時や苦しい時は、誰だって人のぬくもりが欲しいものですよ」

 

いつも通り、だから何も感じない。だけどその裏に隠された心、アリシアだけが気付いていた辛さ。このまま突き進めば何も残らぬ、だからこそ止めると抱きしめて。

 

「そうか・・・・・・君の言う通り、俺は悲しかったんだな」

 

その温もりに、気が付けば涙があふれていて。彼は知るのだ、自分でも気づいていなかった己の本心を。

 

ゆっくりと深めていく確かな甘さが心地よく、胸を擽るこの作品。仄かに香るようなラブコメを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。