読書感想:悪役貴族の最強中立国家

 

 さて、地球においてはスイスという国があるのは画面の前の読者の皆様もご存じであろう。かの国にも特産品が色々あってよい国であり、かの国は中立国家という独自の立ち位置を築いている訳であるが。幾ら戦わぬ、というお題目を掲げていても武力を持ってはいない訳ではなく。国民の家には核シェルターが常設、更には自動小銃も配布されていると言うのは画面の前の読者の皆様はご存じだろうか。

 

 

そう、中立国家を謳ったところで周囲の国から攻め込まれぬ保証も戦争に巻き込まれぬ保証もない。ならばどうするか、いざという時に跳ね返せる程度の力は持っていないといけない。これはそんな、中立国家を作り上げることを目指す少年、ローグ(表紙中央)のお話なのである。

 

風呂場で滑って頭を強打、そんな経験で別世界、日本で普通の社会人として生きるも過労であっさり死んだという記憶が流入してきて。ローグが気付いたのはこの世界は「ラクアの英雄伝説」と呼ばれるゲームの世界の、王国貴族で悪役領主であり、自分は第三ステージのボス、ルート次第で勇者か魔王、どちらかに殺されるという事。つまりはこのまま数年経てば自動的に死亡、という訳である。

 

「俺はアルデア家の全てをお前にベットする」

 

そんな事は当然避けたい、さてどうしよう、一先ず領内を見回ってみればインフラも壊滅、領民は飲まず食わずという割と終わりかけの状況で。まずは領地を立て直そう、という事でローグは領地に出入りする商人に、インフラ修繕事業を持ち掛けて。城とその土地を担保に融資を受け、まずは雇用を生み出して。領地に流れ着いていた魔族が持っていた胡椒を見て、商会に今度は貿易と銀行の設立を持ち掛けて。海軍大将、レイナ(表紙右)を中心とし、軍備を拡張していく。

 

「我々はもっとお互いのことを知るべきだと私は思います」

 

続けて接触するのは海の向こうの魔族の国、魔王のハインリッヒ。原作においては臣従するも、今回は違う。 魔族の国では普通にある胡椒と、そちらにはないお酒での交易を持ち掛け、まずは魔族側からの破滅フラグに対処し。そこで国王からの呼び出しがかかり謀反を疑われ。一先ず軍備縮小という方針で手を打つ。

 

その最中、妾腹の王女であるミレイネ(表紙左)から望まぬ縁談から逃げる為自分を誘拐して欲しい、とお願いされ。そこで思いついたのは、中立国家を作る、と言う事。

 

「戦争をしないための戦争をするのです」

 

その為に必要なのは、認めさせること。魔族の国への侵攻を企てていた王国に敢えて反旗を翻し、魔王と対等に手を組んで。力を見せつける形で、圧倒的に勝利する。

 

だけど彼はまだ知らぬ。勇者が生まれるフラグは立ってしまった、という事を。魔族側からの破滅フラグは折れても、まだ勇者側のフラグが残っていると言う事を。

 

存分に内政が描かれる、領地運営の内政の面白さがあるこの作品。運営ものが好きな読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

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