さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様にはトラウマ、というものは存在するであろうか。例えば何らかのアニメでショッキングなシーンを見た時、例えば日常生活で何か酷いものをみてしまった場合。そのような場合にトラウマ、というものは発症するやもしれぬものであり。内容によっては日常生活にも影響を及ぼすものとなるかもしれぬのだ。
さて、ではこの作品に事案と言う言葉が入っていて、サブタイトルだけ見れば意味が分からぬかもしれないが、どういうことかと言うと。この作品においては「トラウマ」、というのが全ての始まりとなる。過去に衝撃的なトラウマを抱え、その後に副作用付きの特殊能力を得た少女達を救う為に奔走する少年のお話なのだ。
「月子はなにもまちがってないよ」
どこにでもあるベッドタウン、夜見坂市。かの街に暮らすどこにでもいる少年、幸路。夏休み、赤点を取ってしまって補習の後、彼の家に押しかけて来た友人、月子。彼女が目撃したのは、幸路が「猫」と言い張る少女。それは全国ニュースで行方不明が報道されていた小学生、文香(表紙)。警察に通報したかと思えばそれが逃走中の強盗であって、港まで拉致された後、月子に助け出されて。改めて説明をする事となる。
月子と文香、二人に共通するのは「トラウマ・サヴァン・シンドローム」という力。月子の力は火炎放射能力、副作用は理性を失う程の発情。文香の能力、それは未来のニュースをヘッドラインで見る、副作用はクローゼットの中でしか寝れぬというもの。 文香は未来に自分の死、「新・八月事件」と呼ばれる八月にのみ発生する小学生連続誘拐殺人事件で死ぬと言う未来を覆す為、幸路とともにいた。そして幸路は五年前、かつて月子が巻き込まれ殺されかけた旧・八月事件の時からこの事件を追い続けていたのだ。
月子の発情を身体を触る事で解消しつつ、馴染みの刑事である三木島や幸路の憧れの人であり能力を捨てられた少女、由美と関わったりしつつ。時に幸路が何故か小学生のコスプレをしたりしながら。犯人を追うも、彼等の捜査線に引っ掛かるのは、模倣犯であり。犯人は未だ、別にいるという事実が示される。
「まだ小学生なんだから」
その中判明するのは文香の嘘。それは全部を背負い込もうとしている事。それは許してはいけない、全てを背負わせてはいけぬ。彼女は未だ小学生、我が儘を言ったっていいのだから。だからこそ、解決するのは自分達のやるべき事だ。
「どっちも俺の」
真犯人の動機、それは身勝手なもの。だからこそ悔しがらせる為、最後は子供っぽく。自分にとって百点の正解を叩きつけ、犯人との決着をつけるのである。
一見すれば背徳、二度見ても背徳。ミステリーと言えばミステリー、しかしミステリーと呼んでいいのかは首を傾げるまさに怪作、しかし確かに言えるのは作者様の性癖がこの作品でも絶好調、という事である。
そんな、ちょっと不思議な怪作ミステリーを読んでみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: 少女事案: 炎上して敏感になる京野月子と死の未来を猫として回避する雪見文香 (ガガガ文庫 ガに 4-1) : 西 条陽, ゆんみ: 本