読書感想:ミリは猫の瞳のなかに住んでいる

 瞳のなか、そこに宇宙が広がっていると言ったのは誰であったであろうか。それはともかく、何かの瞳の中を覗き込んでみた時、画面の前の読者の皆様は吸い込まれるような感覚を覚えられた事はあるであろうか。瞳の中に映っているのは、果たして本当に自分だけなのであろうか。

 

 

世間を流行り病が襲い、すっかり世間はリモート体制となる中。大学生となったばかりの青年、窈一(表紙左)。退屈な大学生活を切り裂いたのは、一発の銃声。彼の住まうボロアパートの隣室から響いてきた銃声を聞き、慌ててその現場へと駆けつけんとした彼はその場に突然現れた野良猫の目を通じ、一人の少女と出逢う。

 

「わたしには―――未来が視える」

 

その名は美里(表紙右上)。彼女の飼い猫であった猫、サブロー(表紙手前)を通じ過去から未来を見る彼女と、窈一は交流を始め。瞳を覗き込む事で記憶を追体験できるという力を持つが故に、「死者からの手紙」という都市伝説にも近い形で自分なりの「善」を為していた彼へと彼女は依頼する。近いうちに連続殺人事件が起こる、彼の通う大学の演劇部に入部し、それを何とかしてほしいと。まずはオーディションから始まり、その場で起きた放火事件を解決した事で脚本担当である志摩男に気に入られ入部する事に成功し。いきなり次の劇の主役を任せられ練習に励む中、主演女優である千都世とも出会い。数々の仲間が出来、本格的に彼の演劇部での日常がスタートする。

 

「だから、会いたくても会えないの」

 

 即興劇で部員と対決したり、千都世と距離が近づいたり。大学生らしい日常の中、美里と出会いたいと願う窈一。しかし美里は衝撃的な事実を告白する。窈一の方の時間軸では彼女はもう死んでいる。だから、会えないと。

 

一体それはどういう意味なのか、問う間もなく切られる接続。真意を問う間もなく、再び巻き起こる殺人事件。美里の助けもない中、彼は名探偵としての仮面を被り役を着る事を求められる。

 

 さて、ここまで語ってきた通り、もうお分かりであろう。この作品はミステリーである。故に、この感想で事件の概要、真実を語る事は望ましくない。どうか画面の前の読者の皆様の瞳で、その真実は目撃してみて欲しい。

 

せめて、語れるところだけの欠片は記しておこう。この事件の裏にあるのは、様々な者の思惑だ。そして、犯人も彼女も実のところ、最初から姿を見せている。

 

「もちろん―――いいよ」

 

そしてこの作品は、「僕」が「君」と別れ、「君」が「僕」と出会うまでのお話なのだ。逃れられぬ覚悟が目指す光を見て、呪いを解くために歩き出すまでのお話なのである。

 

正しく万感、摩訶不思議で衝撃的。ここにしかないお話を目撃してみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

ミリは猫の瞳のなかに住んでいる (電撃文庫) | 四季 大雅, 一色 |本 | 通販 | Amazon