読書感想:堕天使設定のV系ヴォーカリスト、召喚された異世界で救世主となる 1st 黒き翼の序曲

 

 さて、音楽のジャンルとしてヴィジュアル系というのが存在するわけであるが、画面の前の読者の皆様の中にもそういうバンドが好き、という読者様もおられるだろうか。そういったバンドは、それぞれの世界観の設定があり、それを演じ、それを遵守している訳であるが。やはりヴィジュアル系、というのはそういった世界観、こそが魅力となるのであろうか。

 

 

しかしそういったヴィジュアル系、というのはラノベにおいては題材となる事がほぼない、と言えるかもしれない。実際、私は見た覚えがない。それはやはり、その世界観から来る言動を考えるのが大変、という事なのかもしれぬ。だがこの作品は、そんなヴィジュアル系バンドのボーカルが主人公である。そういったジャンルへの愛が込められている作品なのである。

 

 

ヴィジュアル系のバンドでありながら数百万人のファンを持つ、国民的アーティストの一角であるバンド、「エルヴァイン」。かのグループは、「音楽で世界を救いたい」というボーカル、ゼノ(表紙中央)の思いから生まれたもの。しかし、彼の実力はバンドメンバーとはあまりにも隔絶しており。 彼が世界に羽ばたくのを邪魔したくない、というメンバーたちの想いにより今、解散の時を迎えた。

 

「新たなるステージ―――そういうことか」

 

 

 その解散ライブの中、突如現れたのは予定にない演出、光の階段。その先に進んだゼノは、異世界の王国に妾腹の王女、リーゼ(表紙左上)の勇者として呼ばれる。王国の継承権を巡る王位継承戦へ「双翼の勇者」、として呼ばれ参加する事となる。

 

 

リーゼからすれば、変な人という印象がぬぐえなかったゼノ。実際彼は赤石先生の他の作品の主人公のように別に武道の心得がある訳でもない。では彼に何の力があるのか。

 

彼にあるのは、音楽の力。人々の心を揺らし、魅了する、比類なき歌の力。そして、設定から生まれた堕天使の力。圧倒的な力を持つ羽を自由自在に扱う、しかし彼の本領は歌なのだ。

 

「ファンですぅぅ~・・・・・・!」

 

同じく日本から別の王女の勇者として呼ばれた大ファンの女子高生、七海(表紙右下)はゼノに心酔し、ファンそのものの行動を見せ。異世界でも歌でムーヴメントを巻き起こし、その世界観と諸人を鼓舞する歌で世界を、人々を魅了していく。

 

 

その歌声はするりと真に迫り、人々の心を揺らして。容易く人々を、ファンへと変えていく。

 

「オレは、救いを求める声―――それに、応えただけだ」

 

しかし、彼はどこまでもひたむきに進んでいるだけだ。助けを求める声、それを聞き届けて。それは最初に抱いた夢、そのままに。その彼の道に、世界に。リーゼもまた己の王道を見出し、一種の救いを得ていくのである。

 

独特の世界観と一種の爽快感があるこの作品。 爽やかな面白さを読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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