さて、「復讐するは我にあり」、と言う言葉がある。「目には目を歯には歯を」、という文言で復讐を許容していた法律もある。しかし現在の日本では、復讐は犯罪行為となる。よって復讐したい相手がいたとしても、基本的には出来ないものである。ではそれでも復讐しよう、とする者はどんな者なのだろうか。それの一つの例として、「無敵の人」、最早何も失うものがない人、というパターンがあるのかもしれない。
ではこの作品のヒロインである冥(表紙)は何故、復讐を志したのか? それは三年前に自殺した姉、明里の為に。自殺を選ぶまでに追い詰められてしまった姉の復讐のために、である。
四方を山に囲まれた田舎の都市、阿加田町。この地で父親と二人暮らしを営む少年、栞。ある日、彼の家に冥が居候する事になり。どこか不思議な雰囲気を持つ彼女は、二年生に進級してからのいじめで不眠症となった栞に、薬を提供する代わりにとある話を聞きだす。
それはオカカシツツミと呼ばれる、オカカシサマと呼ばれる蛇の神様に関する儀式。夏至の季節、儀式を行う事で巫女がオカカシサマと一体化し、超常の力を得る儀式。
「はじめましょう」
その儀式に基づき、人の魂を生け贄とするために。冥はかつて明里をいじめで自殺に追い込んだ主犯格の七人に復讐を果たす為。オカカシサマと一体化し、超常的な力を用いて復讐へとひた走る。
2人の物語の合間で語られる、主犯格の子供達による凄惨なイジメ。閉鎖された環境が生んだ魔物達、そいつらによる凄惨な、尊厳を奪い去る程に苛烈なもの。自分達の置かれた環境に卑屈になり、全てを卑屈に巻き込もうかとするもの。
そのイジメを起こした者達を、それを見て見ぬふりをした者達を。冥は凄惨だけれどそれを感じさせる間もなくあっさりと殺していく。ある者は首を折り、またある者は腹を、四肢を折られ。尊厳なんぞ知った事か、その命に価値はない、と言わんかの勢いで殺していく。
その復讐に、栞も教えた事で付き合う事となり。力を使った反動で動けなくなる冥を庇い、己も手を血に染めて。どんどんと共犯者として、戻れぬ道へと踏み込んでいく中で。二人の距離は近づいていく。
冥だけでは何も出来なかった、だけど栞と一緒なら、痒い所に手が届く。ひょんな事から仲間を得たり、一緒に何気ない時間を過ごす中。ある意味2人は、恋人同士のような時間を過ごしていく。
だが、その時間には終わりが来る。儀式は最後、巫女がその魂を捧げて完遂する。 その結果は変えられぬ。復讐の果て、何気ない恋人のような時間を過ごし。最後、別れの時が来る。
「お祝いをしましょう」
その果て、二人が見る景色とはどんなものか。それは是非、皆様の目で見届けてほしい。
正に心抉られる、重くて苦い面白さがあるこの作品。 覚悟がある読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。
Amazon.co.jp: さようなら、私たちに優しくなかった、すべての人々 (ガガガ文庫 ガな 11-3) : 中西 鼎, しおん: 本