読書感想:グールが世界を救ったことを私だけが知っている 01. 共喰いの勇者

 

 さて、異世界に魔物という存在はファンタジーであれば割と付き物である。そういった人に仇為す存在との戦いは、描かれ方と作風にもよるが主人公による圧倒的な無双として描かれる事も多い。そういう作品であれば誰も死ぬこともなく、熱さと爽快感が楽しめるであろう。だがしかし、忘れてはいけぬ事もある。それはそういった作品はリアル方向に突き詰めると、本当の意味で命がけとなると言う事を。そしてそういう場合、命は簡単に失われると言う事を。

 

 

たった100年の黄金期の後に訪れた暗黒の時代を迎えているとある異世界。この世界は今、純白の闇に地上全土を覆われていた。「混沌の霧」と呼ばれるそれは様々な害を人間に齎すも、特に大きな病として「青眼病」、人を「魔物」に変えると言う病を齎す。そんな病がまん延し、何度殺しても蘇り数を増やすばかりの魔物達により人類は滅亡の危機に追い込まれるばかり。そんな世界の片隅で、初めての「迷宮」探索に出た少女、アリス(表紙左)は魔物の大群に囲まれ、死の危機に瀕していた。

 

「―――汝等の眠りが、永遠の救いであらんことを」

 

 仲間達が呆気なく殺され、凌辱される地獄の中。彼女を救った一つの黒い影。その名はレオン(表紙)。「赤眼」と呼ばれる人の心と異能力を宿す「グール」であり、「勇者」と認められた者である。

 

だがしかし、人類は彼には冷たかった。唾棄すべき者と石を投げ蔑み、彼を憎悪し。それでも彼は生き恥を晒していると自覚しながらも、ただ使い潰されるように力を振るっていた。そんな彼の元へと押しかけ、半ば強引に弟子入りし。アリスは彼の傍らで様々な依頼に挑む中、魔物が齎す災禍とそこに込められた人間としての憎悪を目撃することになる。

 

とある村を襲う、小鬼を従えた大鬼人。そこにあったのは、妹を想う兄の痛烈な愛。

 

「共喰い村」と呼ばれる稼ぎ場で蘇った豚人の女王、それが持っていたのは、只幸せになりたかっただけの聖女の思い。

 

霧に飲まれた殉教者たちの街、其処を守っていた炎の人。それが持っていたのは、未来の選択を間違えた一人の騎士の後悔。

 

様々な思いに触れ、凄惨な現場を幾度も目撃し。その中でアリスはレオンの過去に近づいていく。彼が抱えた後悔、人間を魔物に変えると言う殺人鬼、「夜行殺」との戦いの中、親友であったラインハルトを失い、師匠であった二代目勇者、クレアを失ってしまったと言う消せぬ過去を。

 

「オレの目的はさ、これだけなんだよ」

 

その前に、天使型の魔物へと変じ「魔王」へとなり果てた親友、ラインハルトが現れる。レオンへと混じり気のない憎しみを向け、殺す為に最高の舞台を整えんと聖都を惨劇の舞台へと変える。

 

 

立ち向かえば死は必然、それでも戦わねばならぬ。命の賭け時はここだと。もう師匠の遺品である聖剣の後継者も見つかった、だから大丈夫だと。自身の肉体を更に改造し、限界すらも厭わず。敗北必至の戦いへとレオンは挑む。

 

果たして彼は一人なのか。誰も隣に立てぬのか。

 

「だって、わたし達はまだ、これからじゃないですか」

 

否、もう彼は一人に非ず。クレアの専用装備を纏い駆けつけたアリスは彼を助け、まだこれからだと口にする。そこに溢れるのは間違いなく希望、そして勇気。その光が、レオンの心に希望を灯す。

 

「ずっと、見守ってくれていたのですね・・・・・・・・・師匠」

 

そして本当の勇気を知った時、最初から側に居たものが駆け付ける。本当の意味で継承者となった政権を握り、最後の戦いが幕を開ける。

 

「胸を張れ。お前はオレ達の家族で、オレ達の誇りだ」

 

三人の力を合わせ届いた刃、最後の際の一瞬。明かされたラインハルトの意思、それは不器用だけど何処までも愛情に満ちた家族を想う言葉。

 

だがこれはまだ始まりに過ぎぬ。決着をつけるべき元凶は未だ、生きているのだから。

 

ゴブリンスレイヤーが好きな読者様であれば満足されるだろう、何処までも真っ直ぐなダークファンタジーであるこの作品。

 

重い展開が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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