さて、背信、または背徳という言葉には背中という意味の単語が入っているのは一目瞭然であるが。信じる者に背を向ける、もしくは徳というものに背を向けるからこそそういった意味を持つ、と言う事かもしれない。 ではこの作品における背信とは何なのか。それは、人類という枠組みへの背信行為という事に他ならぬのである。
世界各地にダンジョンが出現して早くも五十年、探索者という概念や配信という娯楽が当たり前の事として定着したとある世界。長年の友人達と「クマゼミ」というチームを組んでいる探索者の青年、クガ(表紙左)。「勇者」というジョブを持つ彼は今、長年の仲間達から追放される事となり。餞として、生きては戻れぬと噂の隠しボス部屋に放り込まれようとしていた。 「勇者」なのに何故、か。それは勇者というジョブは万能であるも言い換えれば器用貧乏、専門職である他ジョブ程に極めることは出来ず。クガもヒーラーとしての活躍がメインであったから、だ。
「私にハイシンを教えてくれないか?」
しかし、隠しボスであった美貌の吸血鬼、アリシア(表紙右)はクガが行っていた配信というものに興味を示し、配信を教えて欲しいとお願いしてきて。アリシアの目標であるラスボスになりたい、という目標の為に様々な小目標を達成していく事となる。
拠点となるのは魔物の街、其処で知るのは魔物は意外と文明的であり、通貨も人間と同じという意外と共通点も多いと言う事。 更には、人生に一度きりの蘇生魔法があるので躊躇わず探索者を殺したら、実は残酷な行為で不人気な探索者であったらしく、意外と評価を集めることが出来て。 目標を達成するために動き出す中。柴犬めいた魔物のコボルドと契約を結んだり。人狼族のエリアでグレイという少女人狼がクガに惚れこんで眷属になったり。変な女性にクガが好かれていく女難の相が垣間見えたりする中。かつての仲間達の危機を救う中、クマゼミの面々の思いと追放の真相が見えてくる。
それは、クガの事を思うから。勇者という器用貧乏な強さを逸脱した個の力を持っているからこそ、自分達が足かせとならぬように解き放ったという事。本心を知り戸惑う中、そこに無粋に水を差さんと迫ってくるのは、武闘派で悪名高い探索者達。クガとその仲間達を同時に襲う敵襲に分断され、なすすべなく追い詰められてしまう。
「なんでってそれは至極簡単なことだよ。君達のファンだから!」
やはり人間は信用ならぬ、卑怯な者達ばかりか。否、それはない。最強のソロ探索者がファンであると公言しながら駆けつけ。クガは堕ちた勇者として仲間の友へ駆けつけ。犠牲を出しながらも、侵攻してきた敵をぶっ飛ばすのだ。
「頼りにしてるぞ、クガ」
頼りにされて、頼りにする。敵であるはずの魔物と絆を結び、爽快感のある戦いに突っ込んでいくこの作品。 爽快感のある配信ものを見てみたい読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。
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