読書感想:孤高の暗殺者だけど、標的の姉妹と暮らしています

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様にとって「ホームコメディ」と聞いて連想されるのはどんな作品であろうか。最近の作品であればかの有名なスパイファミリー、少し昔の作品であればパパのいうことを聞きなさい、同じGA文庫であれば家族なら、いっしょに住んでも問題ないよね? 辺りがあるであろう。ではこの作品はホームコメディ、との事であるがどうなのか。

 

 

先に少しだけ説明すると、この作品には父親役、というより大人が存在していない。そしてこの作品は、アクションとバトルも盛り込まれた作品なのである。

 

異能が存在するとある異世界。かの世界のとある国の政府秘密組織「セクター9」に属する暗殺者五年目の青年、ミナト(表紙左)。日々闇に紛れ異能犯罪を狩る彼はある日、育ての親である伝説の暗殺者、カインが失踪し自身に遺していた最重要任務を受け継ぐ。

 

「一緒にいてやるから離してくれ」

 

 が、しかし。暗殺者である筈の師匠が遺したのは暗殺対象である自身の義娘と仲良く暮らせというもの。訳も分からず、されど報告するわけにもいかず。指定された家で待っていたのは、暗殺対象である謎の異能持ちの少女、ララ(表紙中央)と師匠の実の娘である魔女の名門のお嬢様、エリカ(表紙右)。無邪気にカインの帰宅を信じているララに真実を伝えるべきか迷う中、ララの誘拐事件が発生し。不俱戴天の仇である筈のミナトとエリカは協力し、ララを救うために奔走する事となる。

 

今まで精密機械のようだった筈の自分に生じる狂い、それは手元を狂わせミスを誘発する。それでも身に着けた経験とエリカとの協力により事態を脱し、何とか日常へと戻る。

 

そこから始まるのは、裏と表、二つの日常の行き来。時には家族で買い物に繰り出したり、一緒にキッチンに立ったり。不器用に家族としての仲を深める中、裏の日常では次々と襲い来る異能犯罪者をエリカとのバディで息を合わせ迎撃し。ララを狙う犯罪組織に迫っていく。

 

初めて味わう、家族という枠組みの温かさ。初めて感じる、背中を預けられるものの大切さ。今まで知らなかった数々のものが、ミナトの心に初めての温かさを齎していく中。ひたひたと、終わりの予感は忍び寄る。

 

そう、「セクター9」の一員として、ララを殺さねばならぬ。だが味わってしまった温かさがその手を押しとどめる。精密機械に生じた狂いが、いつしか心を埋めていく。

 

殺すべきか、殺さぬべきか。任務と家族、二つの間で揺れ惑い。その中で、彼は何を選ぶか。それは、自分が今まで選びたかったもの。

 

「俺がお前の兄ちゃんだからだ! 妹を守る理由なんてそれで十分だ!」

 

そう、確かに楽しかった。その楽しさが温かさが、いつのまにか自分の心を埋めていた。今、守りたいのは只一つ。それは「暗殺者」ではなく「兄」としての思い。人間としての思い、それを彼は選んだのである。

 

時にアクションで心燃え、時に家族の絆にほっこりするこの作品。様々な意味で面白い作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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