
この才能も感情も、捧げる先はただ一つ。これはこの作品におけるキャッチコピーであり、我が読友であられるかなたさんの考えたコピーである。それはともかく、画面の前の読者の皆様は何か、全てを捧げたいと思った相手はおられるだろうか。例え何もかもを捧げるとしても、誰かのために。そう思えるほどの相手に出会った事はあられるであろうか。
魔物や冒険者が存在し、人々に神々の加護による「天職」が存在する異世界、アブべラント。その世界の片隅の街で、墓地の近くで暮らす日本からの転生者の青年、知聡(表紙左)。
普段は持ち込まれる遺体の検視を手慣れた様子で行う彼は、果たして医者なのか。否、彼は医者ではない。転生するまでは数多くの人々を救ってきた医者である彼の天職は「暗殺者」である。
否定したくて逃れたくて、逃げるように様々な技術を身に着けようとして、結局行きつく先は殺しの技能。やがて何処か疲れ、諦めたかのように。彼は謎の少女、ミル(表紙右)を助手として、時に万物を切り裂く「切除」の異能を以て復讐を果たす「復讐屋」として生計を立てていた。
何も変わらぬ灰色の日常。しかしそれは、ある日子供の変死体が彼の元に持ち込まれた事から変わり始める。何かが始まるかのように、彼は怪事件の中心へと飲み込まれていく。
家族の墓を荒らされる事件に悩む、ケルブートとスノーという若き夫婦。
獣人である新人冒険者、ニーネのパーティを襲った謎の魔物。
砂漠に発生したゾンビ達への対処依頼、そこで出会った、ガーゴイルと共に暮らす盲目の「魔法使い」、エミィ。
結末は時にほろ苦く、時に温かく。知聡が立ち会ってきた事件の裏、巡るのは謎の人物、「妖術師」。謎の人物の欲望が全てを狂わせ、全ての事態の裏で糸を引いている。かの敵と向き合い、知聡は何を選ぶのか。死んでいった者達の為、義憤で戦おうとするのか。
「俺は一身上の都合で、お前に復讐する」
否、彼が唯一繰り出せるのは「復讐」の刃。殺す事しか出来ぬ、理由を何処かに求めていても結局は己の思いでしか動けぬ。だけど、それでも。誰かを救うために殺す、殺して救う。大切な「彼女」の「秘密」を守り抜くために、その道に知らぬうちに関わろうとしていた黒幕を許すわけにはいかぬ。
その心の奥底にあるのは、悔恨と執念。大切な「彼女」を守り抜く為、例え何もかもを、自らの知己の相手を殺し尽くすとしても守り抜くと言う不退転の決意。
何処か仄暗いこの世界で、夜明けの黄昏を告げるかのように。煮詰められた闇黒かのような様々な悪意の中で。そんな決意が燭光のように輝くこの作品。正に唯一、ここにしかない。
何処にもない、ほろ苦さを読んでみたい読者様は是非。
きっと貴方も満足できるはずである。