読書感想:第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記 II

 

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読書感想:第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記 I - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、前巻で魔族に転生した勇者として禁忌を犯し尽くし、魔国を滅ぼして見せると言う復讐心から来る決意をしたアレクサンドル、もといジルバギアスであるが。その為に魔族として生きるという事は、前巻でも描かれた通り守りたい人間を傷つけるという事である。そして、前巻でも描かれた事態という問題もある。かつて共に戦った仲間と、敵味方として会わなければいけないという事である。

 

 

本来ならば起きてほしくはない、起きるのならばなるべく先がいい。しかしジルバギアスは、どうやら物語の進行の神様に愛されているらしい。そんな細やかな願いすら打ち破られてしまうのが今巻なのである。

 

「妙な感じがするな。それともこれも織り込み済みだと思うか?」

 

前巻でリリアナをペットにしたジルバギアスにプラティから命じられたのは、脱走兵のゴブリンが巣食うと言う廃墟の掃討任務。軍事演習という名目の元、道中で私兵化した黒エルフの一人、ヴィロッサから諜報技術についてのあれこれと剣術を学びながらも、事態は徐々に不穏の要素を見せ始めていた。

 

 その妙な予感は、すぐに現実となる。廃墟に潜んでいたのはゴブリンどころか竜。かつて共に戦った白竜の長、ファラウギ(表紙奥)。運の悪い第四王子、エメルギアスの任務と入れ替わってしまっていた為に出会う事となり、魔族への怒りに傾倒するファラウギを止める事も出来ず。今は仲間を選ぶしかないと、やむを得ず彼を手にかける。

 

その屍は、強力な武具の素材となり。討伐の功績で子爵となり、ドワーフの工房でその鱗を鎧としてもらい、そこに置かれていたかつての武器、聖剣を手にし。ヴィロッサから得た技術を元に、自身の槍を剣槍に改造し、プラティの本気の一端を引き出すまでにその力は成長する。

 

しかし、得たのはそれだけではない。得てしまったのは皮肉な繋がり。接触してきた闇竜族から献上されたのは、奴隷に落とされていたファラウギの娘、レイラ(表紙手前)。人化の術士か知らぬ故の役に立たぬ彼女を、贖罪の為に引き取り、教育を施すと共に彼女の竜としての力を取り戻す手伝いを始める彼。だが、彼に衝撃はまだ襲い掛かってくる。

 

「せっかくだから、教えてあげようか」

 

叙勲祝いとして彼に絡んできたエンマが教えんとする死霊術。一先ずはエンマと友誼を結ぶ為に死霊術を習う事に決めた彼が、エンマの住処で出会ったのは死霊王見習と化していた幼馴染、クレア。最悪の再会に悲しみに沈む間もなく、死霊術の教材としてファラウギの魂を呼び出すことに決める。

 

「―――だから、あなたも。もう気に病まないでください」

 

死した後、ようやく果たされた父と娘、かつての戦友同士の再会。その果て、ファラウギは誇りと愛から自分を滅ぼす事に決め、レイラに全てを託し消滅するのである。

 

徐々に仲間が集まる中、魔王国が動き出す今巻。前巻を楽しまれた読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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