読書感想:絶対魔剣の双戦舞曲1 ~暗殺貴族が奴隷令嬢を育成したら、魔術殺しの究極魔剣士に育ってしまったんだが~

 

 さて、「往きて還りし英雄譚」という言葉があるが、そもそも物語の世界に於いて、異世界に転移した後に帰ってきた主人公のその後、というものはどんなものである事が多いであろうか。そう言った始まりから描かれる作品も多く、異世界のヒロインが追いかけて来て幸せに暮らしたり、現実世界で新たなトラブルに巻き込まれて異世界で培った力を以て戦っている事も多い。では、異世界に残った場合はどうなるのか。異世界で何かを為し栄光を掴んだのなら、異世界で暮らすのも苦ではないのかもしれない。

 

 

しかし忘れてはいけぬ事がある。それは異世界に骨を埋めたのならば異世界でその血は続いていくと言う事。未来の子孫の面倒までは見られないと言う事である。

 

ほぼすべての人間が魔術を使え、魔術での戦いが世の主流となったとある異世界。かの世界の片隅、何も持たぬ没落貴族の当主代行として過ごす青年、ジン(表紙右)。彼は異世界から来た勇者の末裔であり、その血ゆえに魔術を無効化してしまい魔術を使えず。だが家に伝わる「魔剣術」を用いた暗殺者として、裏で悪人を狩る生活を過ごしていた。

 

「誰のものでもないのなら、俺が拾っても構わんだろう」

 

 そんなある日、簡単な依頼と思われた依頼の中でジンは一人の少女と出会う。その名はリネット(表紙左)。子爵家の令嬢でありながら魔術が使えず、奴隷へと墜とされた彼女。自身を殺してほしいという彼女を、満足したら殺してやると伝え、ジンは彼女の事を引き取る事となる。

 

上手く魔法を使えず、感情の機微に応じて暴発させてばかり。彼女の巻き起こす爆発事件に苦慮し、結果的に対処のためにすぐ側で過ごす事となり。妹として面倒を見る中で、彼女の願いである学校へ通いたいと言う願いを受け。名門であるウェブリン女学院へ、リネットは生徒として、ジンは教師として。二人揃って潜入する事となる。

 

 学院の中で「無能」と謗られようとも、リネットは決して諦めない。かつての学友であった少女、ルーシャとぶつかり合い。ジンに習った暗殺者としての戦い方と魔法の使い方、そしてジンの従者であるユリシアに作ってもらった武器を手に果敢に挑み、成長していく。そして彼女を見守り、令嬢たちに魔剣術を教えるジンは、彼女達の未来を守る為、潜入してきた敵国の兵士たちと刃を交える。

 

「一つ講義をしてやろう」

 

自分が追い求める、行方不明となった家族。眼前にいるのは家族と、自分と同じ力を使う魔獣を使役する者達。そこに繋がりがあるのは半ば明白、だからこそ逃がすわけにはいかぬ。例え魔術が使えなくとも使える力がある、そう言わんばかりにジンは己が力を解放するのである。

 

王道的な物語に裏打ちされた安定感とレベルの高い面白さがあるこの作品。王道の作品を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

絶対魔剣の双戦舞曲(デュエリスト)1 ~暗殺貴族が奴隷令嬢を育成したら、魔術殺しの究極魔剣士に育ってしまったんだが (HJ文庫) | 榊 一郎, 朝日川日和 |本 | 通販 | Amazon