読書感想:十五の春と、十六夜の花 ―結びたくて結ばれない、ふたつの恋―

 

 さて、勝者が世界を望んだように作り変え、人々の認識すらも改変してしまう。というのは今放送中の仮面ライダーギーツの舞台であるリアリティライダーショー、「DGP」である。というのはともかく、皆様はもし世界を望むように作り変える好機が目の前にあったら、その好機に手を伸ばされるであろうか。その結果、世界がどうなるとしても。皆様はその好機を行使されるであろうか。

 

 

「答えてよ、はーちゃん。誰の夢を見たの?」

 

非の打ち所がないスタイルの良さでありながらも、愛が重いヤンデレ気味。幼いころからの幼馴染である紗弥花(表紙)に日々ちょっと過激なスキンシップを取られ振り回されながらも、高校生活をスタートさせていた主人公、春季。彼女に振り回されながらも、この日々はつつがなく進んでいくはずだった。

 

「じゃあ、―――キスしてよ、はーちゃん」

 

が、しかし。突如として席替えまでして春季へ接近してきた級友、優紀。同じ委員会である彼女と委員会の活動で二人きりとなり、紗弥花との関係を聞かれ、何故かキスされそうになり。その場面を目撃していた紗弥花にキスを迫られ、思わず拒んでしまい。二人の間にはちょっとした溝が出来てしまう。

 

―――しかしそれは、嵐の前の静けさに過ぎなかった。次の日、何故か紗弥花はドッペルゲンガーが如く全くそっくりな二人に分裂し。しかもその状態が、周りに当然のように受け入れられてしまったのである。

 

どう考えてもSFどころか怪現象、2人の紗弥花は同一人物であってもいがみ合う。そんな二人の間、板挟みとなる中で今度は優紀が登校してこなくて。担任に頼まれプリントを届けるために訪れたのは、彼女の家が管理する寺院である「窟華院」。優紀の母親であるカンナに連れられ彼女の元を訪ねてみれば、何故か優紀は男性になっていたのである。

 

重なっている二つの異常事態。もはや放置するわけにもいかぬ。理由を知る為に動き出す春季がカンナから教えられたのは、「徒花奇譚」という御伽噺。古の時代、とある破戒僧と花売りの女の結ばれなかった悲恋のお話。

 

そこに秘められた、願いを叶え世界を改変すると言う徒花の謎。それがあるのは、立ち入り禁止とされる寺院にある洞窟。春季と紗弥花にとって、因縁のある場所。

 

だが隠されていたのは、優紀の、そして紗弥花の、更には春季の。三人に隠されていた秘密、思いが壊れかけた力により歪められたと言う真実であった。

 

封印された姿見、そこに込められた優紀の思い。春季とずっと一緒に居たい、そう願った紗弥花の願い。紗弥花と一緒に、そう願った春季の思い。

 

「お願いなんて、しなくていいんだよ」

 

大切なのは自分の手で叶える事。そして逃げない事。もう逃げたくないと三人で選び。夢の世界を終わらせる事を決意し、花を摘み取って。だがその先に待っていたのは全ての事実を覆す真実。カンナ、という確かにそこにいた者の思い。

 

「どれだけ曖昧な世界でも、ずっと一緒にいたいという気持ちだけは、確かなことのはずだから」

 

古も、今も。希う気持ちは変わらない。今この世界は本物か、誰かの願った世界なのか。それは知るすべもない、だがそれでいい。この思いは変わらない、そう信じられるから。

 

濃厚なミステリーの中、希う思いが切なさを見せる今作品。頭を使って本を読みたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

十五の春と、十六夜の花 -結びたくて結ばれない、ふたつの恋- (講談社ラノベ文庫) | 界達 かたる, 古弥月 |本 | 通販 | Amazon