読書感想:Vのガワの裏ガワ1

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様はVtuberという存在はお好きであろうか。最近はラノベにおいてもVtuberものは少しずつ刊行されている訳であるが、そういう作品は大体、日々の活動や語られない裏側を語っている事が多い。では皆様は、そもそもVtuberというのはどうやって生まれるものかご存じであろうか? まず必要なのは身、要はガワである。だがそれだけではいけない。この作品は、そういう存在を一から作り上げていくお話なのである。

 

 

口を開けば二次元美少女の話ばかりで変人扱い、だがその裏の顔は圧倒的な画力と万バズが当たり前のプロのイラストレーター、「アトリエ」。そんな裏の顔を持つ少年、千景は更なるレベルアップのために、デッサンモデルとなってくれる存在を探し、日々女子に声を掛け、更に変人扱いされていた。

 

「埋め合わせする気、ある?」

 

 そんなある日、彼の元に舞い込んだ1通のDM。呼び出された先で待っていたのは、一目置かれた高嶺の花である級友、果澪(表紙)。アトリエ先生の大ファンであると言う秘密を明かした彼女は、アトリエの書いたあるイラストが自分を無断でモデルにしたものであると看破し、埋め合わせのためにとあるお願いを千景にする。それは自分にVtuberとしてのママになってほしい、というもの。

 

ぽんと差し出された札束の報酬と、素人なりに綿密に練られた企画書を見、そもそも断る理由も絶たれている為、協力する以外道はなく。果澪をVtuberにするための計画は幕を開ける。

 

だがVtuberというのは、そもそもイラストというガワだけではいけない。今やレッドオーシャンと化してる動画の世界を生き延びる為には、最高の仲間を集める必要がある。

 

モデリング担当として、自身もVtuberの裏の顔を持つイラストレーター仲間、桐紗に事情を話して巻き込み、宣伝担当として人気Vtuberの裏の顔を持つ自堕落な後輩である仁愛が絡んできたのを引き込んで。あっという間に準備は整い、果澪は「雫凪ミオ」としてデビューの日を迎える。

 

初動の戦略が良かったのか、そして地力が良かったからか。苦手なホラゲー配信に挑んだり弾き語り配信に挑んだり。様々な事に挑んでいく中、あっという間にミオは最初の目標を達成し、成り上がっていく。

 

だが、ここで不穏の芽は芽吹く。人気の裏に付き物の、反発と批判。その中で中の人の正体が真偽を明かさぬながらも晒され、千景たちはそこに対処しようとする。

 

しかしそこで躓きが待っていた。騒動の裏、自ら糸を引いていた果澪の思惑と本当の狙いが明かされ。現実に絶望したからが故の願いを明かした彼女は、身勝手に彼等との絆を断ち切る。

 

「ほんとは全部、大切にしたいんだろ?」

 

 今までは何も分かっていなかった。自分が影響を与えてしまったからこそ、止められぬと思っていた。だが桐紗に背を押され、千景は果澪の元に駆け付け、気付いたことを問う。それはデザインという、彼がママだからこそ気付けたもの。そこにあった、気付いてほしかった未練。

 

何もかも寄り添える訳じゃない。それでも今、隣にいることは出来るから。ぶつかり合って分かり合って。またもう一度、彼等の関係は幕を開けるのである。

 

真っ直ぐに爽やか、王道な青春のあるこの作品。何かを作り上げる青春が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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