読書感想:親友歴五年、今さら君に惚れたなんて言えない。

 

 さて、人間何かを始めるのに遅いことは無いらしい。事実、かつて日本地図を作り上げた偉人は、当時からすれば高齢になってからの偉業であったし、今の時代においても、遅咲きの星という形で、何かを始めた人が活躍していたりする。では、「恋」というのは始めるには遅い、という事はあるのであろうか。始めるのが遅かった、それが余りにも、というのなら失恋まっしぐらであるのかもしれない。だがそんな事が無い関係がある、としたらどんなものなのであろうか。

 

 

「これだけ近い距離にいるのに、まるで進展もなく相変わらずな関係なんだ。なんかもうゴミ野郎だよね、俺」

 

幼いころから野球一筋な少年、陸。ソフトボール一筋な少女、碧(表紙)。同じような熱を知るからこそ二人が仲良くなるには特別なことは必要なくて。何も色恋を交えぬからこそ自然と、恋人らしい行いが出来ていた、恋人同士でもないのに。だが、高校入学の日、がらりとイメージの変わった碧に陸は一目ぼれしてしまう。

 

けれどそれは、彼からすれば遅いもの。彼からすれば、今まで告白のフラグを自ら折ってきた事に、今更気付いたようなものだったのである。

 

 

「そうは言うけど、付き合ってもいない相手の惚気を昼休みの間ずっと語られてちゃねえ」

 

日々、友人である銀司に愚痴交じりの相談を投げかけ、呆れられる陸。その裏、彼の知らぬ所で碧も自身の友人である沙也香に相談を持ち掛け、中々進展できぬ事を口にする。そう、何を隠そう、二人は両片思い。ただ、親友同士として距離感のない関係を築いてきてしまったからこそ、新しい思いに戸惑っているだけだったのである。

 

そんな二人は、プラネタリウム帰りに慣れない靴で足を痛めた碧を、陸が抱きかかえたり。キスをしようと勝負を持ち掛けてみれば、策士策に溺れてみたり。碧の通院に陸が付き添っている所を目撃され、敢えて立った噂を肯定してみれば、学校を巻き込むような大騒動になったり。

 

賑やかな日々を過ごす中、近づく体育祭の季節に実行委員側で関わることになり。その中で、陸がブランクもあるもすごい力を示した事で野球部の先輩に勧誘されているのを見た碧の心、一つの思いが浮かび上がる。自分に彼を縛り付けるのはもうやめよう、彼を甲子園と言う夢の舞台に進ませてあげよう、と。だがそれは彼の想いを見ていないもの。そうとは知らず、二人の関係は些細なすれ違いを迎える。

 

ならば陸がやるべきことは何か。たくさんの人達に背を押され、碧の元へと駆け出していく陸。彼女は一体、何処にいるのか。その答えは、体育祭の競技の一つである宝探しの中に。誰もが見ていない、けれど確かに見ているもの。それが見守る先に彼女はいる。

 

 

「―――碧と一緒にいたい。楽しいことがあった時は一緒に笑いたいし、辛い時は側で支え合いたい」

 

今こそ伝えるのは。お互いに隠していたもの。心から伝えるのは、混じり気のない本物の想い。その思いは確かに届き。二人の関係を半歩だけ、変えるのである。

 

親友同士だからこそのこそばゆくてもどかしい、まさに背筋がかゆくなるようなラブコメが楽しめるこの作品。甘さで震えたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

親友歴五年、今さら君に惚れたなんて言えない。 (角川スニーカー文庫) | 三上 こた, 垂狼 |本 | 通販 | Amazon