読書感想:問題児の私たちを変えたのは、同じクラスの茂中先輩

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は、ラノベにおける「問題児」と聞いて誰の事を連想されるであろうか。私個人としては、同じ角川スニーカー文庫の作品である愛すべき某問題児三人組を推したい次第であるが、皆様はどうであろうか。かの作品の続きが出る事を私は今も願う次第である。閑話休題。それはそれとして、普通「問題児」というのはネガティブな印象を抱かれる事が多い。だが問題児と呼ばれる彼等も好きで問題児になった訳ではないのかもしれない。

 

 

ではこの作品における問題児たちはどうなのか。読み進めていくと見えていくものがあるのだ。

 

成績優秀、イケメン、遠距離恋愛中である年上彼女、「アリス」がいる少年、碧。しかし彼はとある事情から留年し、三年生であるのに二年生の教室で過ごしていた。

 

 そんな彼に再び訪れる「修学旅行」の機会。しかし留年ぼっちである彼に周囲は余所余所しく。気が付けば「余り者班」として、クラスのはぐれ者達と班を組む事になっていたのだ。

 

無愛想で無表情な現役モデル、キラ(表紙)。元サッカーの日本代表レベルのエースなクズ、綾世。真面目過ぎて生徒会を追放された元生徒会長、未月。とある高い才能を持ちながらも、SNSで大炎上して腫物扱いな鈴。

 

「今のままじゃ楽しめないのなら、俺達が変わればいい」

 

 流れでそんな彼等の取りまとめ役となってしまい、アリスに助言を仰ぎ。自分から行動を開始し、碧は彼等が抱えるものに誠実に、真っ直ぐと向き合いぶつかり合い。皆で修学旅行に行き願いをかなえるために奔走する。

 

「これがグレるってやつでしょ?」

 

「そうだな。良いグレっぷりだ」

 

綺麗な砂浜に行きたい、星空を見たい、ナンパがしたい・・・修学旅行の目的として聞くとあまりにも似つかわしい、彼等だけの願い、心の発露。それを全て叶えるにはどうすればいい? 簡単な話だ。ならば枠に収まらなければいい。どうせ何も失うもののなき問題児同士、ならば好き勝手にやったっていい。それこそが問題児だから。

 

 

こっそりと飛び出し、修学旅行先の沖縄を飛び出し離島にまで逃げ出して。始まるのは彼等だけの修学旅行。つまらない枠なんてない、彼等だけの、彼等だけの願いを叶える為だけの、一生に一度しか出来ない、今ここにしかない時間。

 

「それが俺の修学旅行でやりたいことだった」

 

それこそが碧の望んだもの、望んだ景色。彼の演出とプロデュースによりそれぞれの願いはかなえられ。彼を中心として新たな人間関係が幕を開ける。彼に背を押され、問題児たちが前を向いて歩き始める。

 

「おいおい、だとしたらヤバいやつ過ぎんだろパイセン」

 

―――だが、キラのふとした提案から四人は、衝撃の事実を知ってしまう。碧が心に秘めていたもの、彼が抱えた闇と心の傷の一端を垣間見てしまう。

 

知りたくもなかった、まさか―――なんて。知らなかった、彼が―――に―――なんて。

 

そう、問題児たちは前を向いて歩き出すとしている。けれどその先導者である碧はまだ進めていない。囚われ引きずり、固執している。

 

「私が碧を救うのよ」

 

 そして彼はその事実に気付いてもいない。自分が壊れている事にも気づかず、踊り続けている。そんな彼も救いたい。自分達を光へと連れ出してくれた彼を、今度は自分達が引っ張り出す。救いの手を、君にも。ここから始まるのである、本当の意味での物語が。

 

嗚呼、何という物語なのであろう。プロローグである今巻ですらこんなにも私の心を揺らす。込められた痛切なる感情が心をこんなにも揺り動かす、攻めてくる。

 

故に正に器の大きな面白さがある、そう私は言いたい。面白いと胸を張って言いたい。

 

ここにしかないラブコメ、その始まりを見てみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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