読書感想:想いの重なる楽園の戦場。そしてふたりは、武器をとった

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様。皆様はバトルの伴う友情関係、というのはお好きであろうか。君の事は何よりも知っている、君を倒すのは自分だ。戦いの中で結びついた絆、というのはそう簡単に切れることは無いと言うのが物語の常である。だからこそそんな関係と言う物は、何よりも美しく麗しく見える事があるのである。

 

 

とある異世界、その片隅にある竜都ルドベキア。都市を守る守護竜、ルドベキア様の意思を聞き届ける代理人である巫女。不定期な周期で代替わりする都市でもっとも尊ばれるべきその存在は今、代替わりの時を迎え。次代の巫女を決めるトーナメント、最後に残った四人の中に。同じ部屋で過ごす仲間であり、一番の好敵手であるセスカ(表紙左)とレーネ(表紙右)の姿があった。

 

「私を見て! 私を・・・・・・捕まえてみせてよ!」

 

「貴方こそ、退屈なんて思うよりも前に私を見てよ、セスカァッ!」

 

 都市の外に出たいからこそ巫女になりたいセスカ、守る為に巫女になりたいレーネ。貴方と戦いたい、あなた以外に負けたくない。お互いのみを見つめる二人は順当に勝ち残り、決勝戦の舞台へ。 お互いの全力でぶつかり合う勝負は、秘策を繰り出したレーネに軍配が上がり、彼女が次代の巫女となる。

 

だが、彼女が憧れ望んだものは全て幻想に過ぎなかった。都市の為政者であるエルガーデン家より伝えられたのは、守護竜と巫女の秘密。物語の根底をすべてぶっ壊してしまう救われぬ真実。

 

けれどその真実を流布するわけにはいかぬ。優しさと性分からレーネはそれを受け入れ背負う事を選び。その身に得た圧倒的な力で、彼女を追いかけてきたセスカを容易く下す。

 

だがそれでも、セスカは諦めない。レーネの事を真摯に思い、彼女を助けたいと願う。彼女へとライバルでありエルガーデン家の政敵である名家の令嬢、ジョゼットとエルガーデン家の令嬢であるルルナも協力を願い手を貸し。彼女達が大人達の相手をし政変を引き起こす中。セスカは秘密の場所でレーネと向き合う。

 

「期待してないなら、ここまでしない」

 

「―――だって、貴方の夢はもう私の夢になってたんだから」

 

正に鏡写しの正反対、己の立場を取り換えてしまった立ち位置で。禁忌の手段まで用いて命を賭けて。セスカはレーネと向き合い、武器を向ける。彼女を一人にしない為に、全部を背負わせぬ為に。彼女を救うために、己が願いを貫くために。己が武を叩きつけ、ようやく届いたその手。だが代償にその命は削られ。今度は自分が救うと言わんばかりに、目を覚ましたレーネは彼女を救おうとする。

 

「―――さようなら、行ってきます」

 

失いたくないと言う切なる願いに答えるのは、守護竜の想い。その思いが奇跡を起こし。命を繋いだセスカとレーネは新たな世界へと飛び出していく。未知なる世界に、皆で生きていく為の希望を探して。

 

大きな世界で生きる少女達の意思がぶつかり合い、そしてその意思が世界を変えていくこの作品。切なくも美しい、思いが交じり合う耽美があり、それ故に独特の百合な面白さがあるのである。

 

綺麗な百合な作品を読んでみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

想いの重なる楽園の戦場。そしてふたりは、武器をとった (ファンタジア文庫) | 鴉 ぴえろ, みきさい |本 | 通販 | Amazon