読書感想:竜の姫ブリュンヒルド

 

前巻感想はこちら↓

読書感想:竜殺しのブリュンヒルド - 読樹庵 (hatenablog.com)

 

 さて、竜に育てられた人間、ブリュンヒルデの物語は前巻で一つの大団円を迎え、復讐の果てには茨の道が待っていた、というのは前巻を読まれた読者様ご存じであろう。では今巻の表紙を見た時、画面の前の読者の皆様はこうは思われた事はないだろうか。 果たしてこの作品は、「蛇足」になりかねないのではないか、と。

 

 

それもまた仕方のない事かもしれない。前巻でブリュンヒルデの物語は切なくとも完結の時を迎え、これ以上ない程に完結していた訳であるが果たしてここから何を描くのか。もう彼女達のお話に語ることはないと言うのに。

 

そう思われた読者様は是非、安心して欲しい。その答えはここにある。そして今巻の描かれるのは前巻から七百年前の世界のお話であり、前巻の登場人物の御先祖様たちを描きつつ、過去の時代からどうつながって、現代のあの光景に繋がっていくお話を書いていくのである。

 

『よくぞ来た。最も美しき巫女よ』

 

国の外に蔓延る邪竜から国を守ってもらう契約を交わし、その庇護の元に繫栄していたとある小国。かの国で、竜の言葉が唯一分かる「竜の巫女」の家系に生まれ、自身もまた巫女となった少女、ブリュンヒルド。(表紙左)だが巫女であるはずの彼女の心は揺れていた。それは、竜が求める供物の中に、一月に七人、子供を捧げると言うものがあり、その中に彼女の友人であるエミリアが入ってしまっていたから。何とか生け贄の数を減らそうと懇願するも、竜に優しく諭され、結果としてエミリアを救うことは出来ず。

 

その事実と、神竜の言に何か引っかかるものを感じた彼女は、従者であるファーヴニルと幼なじみである王子、シグルズ、その従者の騎士スヴェンと共に国の外へ飛び出し調査を開始する。だが、結果的に国の外に邪竜は見つからぬも、国の外へ出たと神竜が知った途端、邪竜の襲撃が巻き起こる。まるでその行動を引き金とするように。

 

 どう考えても神竜の関与が疑われる状況、そして古い文献の中に見つけた確固たる証拠。邪竜の元締めであった神竜を討つべく討伐に向かうブリュンヒルド達。だが事はなったかと思った途端、突如としてシグルズがまるで別人になったかのように彼女を裏切り。彼女は大罪人として囚われる事になってしまう。

 

ファーヴニルの働きによって脱獄を果たし、彼の故郷に潜伏しながらも状況を探る彼女。

 

その裏、自分の中に入り込んだ異分子と戦いながらも竜へと変化しつつあるシグルズ。もう一人の自分と戦いながら、必死に真実を伝えようと奔走し。その行いが実り、思いを伝える事に成功し。全ては好転するはず、だった。

 

 だがしかし物語はここから流転を始めていく。シグルズの中に巣食う意思、スヴェンの忠義、そして彼等のあり方を否定する者達の思惑。全てを飲み込み、洗い流そうとしながら。運命に翻弄されながらも、彼女達は懸命に立ち向かっていく。

 

「だから、あなたに会えてよかった」

 

そこにあるのは、確かな愛。悪意に翻弄され、種族の違いから手を取り合う事も出来ず、立場の違いからかなえられる事もなく。けれどそれでも確かにそこに在った愛。それは七百年前も、現代も、どの時代も変わらぬもの。

 

故に切なく重く、前巻にも増して鮮烈で。そんな面白さがあるのである。

 

前巻を楽しまれた読者様は是非。きっと貴方も満足できるはずである。

 

竜の姫ブリュンヒルド (電撃文庫) | 東崎 惟子, あおあそ |本 | 通販 | Amazon