読書感想:男嫌いなクラスの美女が、実はブラコンだと知ってしまった結果。

 

 さて、今日の勝利の女神は、あたしだけにチュウする、というのは現在社会現象を巻き起こしているとあるソシャゲの主題歌の一節であるが、この「あたしだけ」、つまりは自分だけという部分に魅力を感じられる読者様はどれだけおられるだろうか。自分しか知らぬ顔、それは大切なものであり得難き輝きとも言えるのである。

 

 

「お姉ちゃんね、彼氏ができたの」

 

実は何気にハイスペックだけど、その全ては大切な家族である姉、晴香のために捧げている。重度のシスコンであると言うこと以外はごく普通の少年、瑛樹(表紙右)。彼の元にある日、晴香から持ち込まれたのは彼氏が出来たという衝撃的なお知らせ。無論シスコンである彼にとってはすぐには許容できるものでもなく。憤りを一先ず抑え、見極めると言う名目で尾行に繰り出す瑛樹。

 

「まさかお前がブラコンだったなんて」

 

「まさかあんたがシスコンだったなんてね」

 

 尾行現場で監視する彼の側、目的を同じくする影が一つ。その名は碧依(表紙左)。晴香の彼氏である彰の妹であり男嫌いを公言するが故にクラスで孤高を貫く、瑛樹の級友であり重度のブラコンである。

 

お互いの目的は同じ、それぞれの姉と兄の関係を引き裂く事。それは一人では出来ぬ、ならば必要なのは共犯者。目的を同じくする二人は協力関係を結び、普段は全く関りを持たずともお互いの情報を共有し、デートの元に尾行を二人で、偽装カップルとして繰り出していく。

 

「あんただけは・・・・・・特別」

 

 だが、相容れない筈の二人の関係はまるで比翼の羽根のようにぴったりと噛み合うものであった。それはお互いに家族を愛すると言う心が、深いところで通じ合ったからか。その関係を目撃した晴香と彰に自分達もカップルであると誤解され、二人は姉兄カップルとダブルデートに赴くことになってしまう。

 

心の中で瑛樹の存在がどんどんと膨らんでいく碧依は己の思いに戸惑い、揺れ惑う。その裏で瑛樹は彰という人間の誠実さと晴香がどれだけ幸せであるか、というのを目撃し。自分がもう側に居なくても大丈夫ではないか、と考えていく。

 

 一足先に気付いていく、本当に大切な事。だがそれに気付こうとしない、受け入れない碧依との間ですれ違いが発生し。彰から碧依の男嫌いの原因を聞かされた瑛樹は、彼女の元へと駆け出していく。

 

「単にな、姉ちゃんのことを、大切に思う人が一人増えただけなんだって気づいたよ」

 

そう、例え関係が増えても、関係が変わる訳じゃない。積み上げてきた時間が消える訳じゃない。単に大切な思いの輪が一人分増えるだけ。それはきっと、喜ばしい事なのだ。

 

だからこそ、形を変えて協力関係はこれからも。少しだけ近づいた距離で、見守る形で。ほんのりと甘い関係が始まるのである。

 

こってこての王道で、真っ直ぐに甘酸っぱい思いをこれでもかと魅せてくるこの作品、真っ直ぐなラブコメが好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

男嫌いなクラスの美女が、実はブラコンだと知ってしまった結果。 (角川スニーカー文庫) | ミヤ, いち, むにんしき |本 | 通販 | Amazon