読書感想:刻をかける怪獣

 

 さて、タイムリープ、特に「死に戻り」と言われる能力と聞いて画面の前の読者の皆様が思い浮かべられるのは某リゼロの主人公であろう、大体は。では画面の前の読者の皆様にお聞きしてみたい。皆様はもし自分が「死に戻り」の力を得たとして、何回までなら耐える自信があるであろうか? 例え幾万回繰り返したとして、耐えられる自信はあられるであろうか?

 

 

唐突だが、作中における世界は滅んでいる。怪獣が出没し、防衛隊が組織されるようになった世界で。「破壊の怪獣」と呼ばれるようになるその怪獣は、たった一匹で世界を滅ぼし、数え切れぬ程の人間を死に追いやった。

 

 主人公、シンもまたその一人。日本最高の防衛部隊、「ホワイト・レイヴン」のエースであった幼馴染、アズサ(表紙奥)を失い復讐を誓うも、十年の時を経ても尚行方の手掛かりすらつかめず。だがしかしある日、彼は「破壊の怪獣」と謎の怪獣の戦闘現場を目撃し、人の言葉を解す謎の怪獣に捕食されてしまう。

 

何故かアズサの名を知っていたその怪獣は自らの力をシンへと託し。気が付けば彼は十一年前、惨劇の時へと舞い戻っていた。

 

 彼に宿っていた力こそ、「刻の怪獣」と名乗った怪獣の力。その力とは、怪獣への変身能力と死に戻りの力。その力を用い怪獣へと変身(表紙手前)し。彼はアズサを救うために戦いを決意する。

 

だがその道程は平坦なものではなかった。怪獣を憎悪するアズサの目からすれば敵としてしか見えず、彼女の手により命を奪われたり。候補生として同期と共に同じ部隊へ入隊してみれば、歴史よりも早い「破壊の怪獣」の襲来が巻き起こったり。幾ら繰り返しても、まるで不死身かと言わんばかりの力でアズサを奪われ。気が付けば一万回以上もの繰り返しを迎えていた彼。

 

その繰り返しを解くカギは何処にあるのか。それはすぐ側、彼が関与できぬ所に転がっていた。アズサの言により見出された可能性、それはシンの同期であるセルホの縁者。既に死していた科学者、ニスモを救うと言う者。

 

怪獣の弱点が分かる力を持つ彼女を救えば、倒す事も出来る。だがそれは決定的に未来を変えると言うもの。アズサの側に居られぬという事。けれどそれでも。シンはニスモに全てを託し。託された彼女は「破壊の怪獣」の秘密を解き明かし、反撃の一撃を叩き込む。

 

だがそう簡単には終わらなかった。当たり前であろう。ラスボス級の敵に別の形態があるのは自明の理である。

 

『―――ああ、今度はお前を助ける番だ』

 

 「破壊の怪獣」の真の姿の圧倒的な力を前にあっという間に追い込まれるアズサ。今回もまた失敗に終わるのか?  ―――否、そんな事はないだろう? 自明の理があるのなら「お約束」だってある。それはヒーローはヒロインの危機に必ず駆け付けるというもの。そして、背負うものがある者は、誰にも負けないと言う事なのだ。

 

確かにつかんだ新たな道。そこで幕を開けるのは新たな未来。誰も知らぬ未知の世界。

 

火傷する程に熱く、鮮烈なまでに眩しくて。嗚呼、この作品を面白いと言わずしてなんといえば良いのか。甘くはない、から熱くて面白い。心燃やしたい読者様はきっと満足いただける筈である。

 

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