読書感想:失恋計画と初恋計画 キミとの恋は、もう失敗しないから

 

 さて、あそこでああすりゃよかったニャ、というのは某国民的アニメの昔のEDの歌詞の一節である。という前置きはさておき、あそこでああすればよかった、即ち後悔。後悔と言う物を長く覚えていて引きずってしまうのは何であろうか。答えは千差万別としても、「恋」という答えを上げられる読者様はどれだけおられるのであろうか。

 

 

もっといい付き合い方があったかもしれない、傷つけない方法があったのかもしれない。そんな後悔を抱えている読者様はどれだけおられるであろうか。という問いかけもさておき、画面の前の読者の皆様も何となくお察しではないだろうか。

 

 そう、「後悔」である。未練ともいえるその因子がこの作品においては重要となるのである。

 

男女問わずに人気者で懸想される事も多い少年、白土。彼は父親の転勤により住み慣れた街を離れる筈が、何かを誤魔化すように強い言葉で残る事を選び。従姉である澄華の世話になることになり、古びたアパートメントホテル、「スミカ」で住み込み従業員として過ごす事となる。

 

 一年以内に結果を残せなければ取り壊し。それを解決するための道を、「ルーム」と呼ばれる憩いの場に導き出し。ホテルを復興させるために頑張ることを決めた白土の元へ、二つの運命的な再会が訪れる。

 

一方的に失恋してしまった、初恋のお姉さんである彩葉(表紙右)。失恋の後に付き合うも、とある事情からフッてしまった元カノ、光莉(表紙左)。

 

「私は……独占欲を刺激して嫉妬させて、やり直しを選んで欲しい」

 

「昔より可愛くなった私を見て揺れる彼と、今度こそ付き合うの!」

 

 白土の心の中に未だ蟠る未練。だがそれは彩葉も、光莉も同じ思いを抱えていた。後悔を抱え、もう一度。今度こそは、と。光莉は「失恋計画」を、彩葉は「初恋計画」を計画し。もう一度白土と恋を始めたい、と二人の恋が動き出したのである。

 

「残念だけど、どちらか一方しか達成出来ないのよね」

 

だが、それはどちらかしか叶わない、成就しない。当たり前である、白土は一人しかいないのだから。ルームの方向性を模索し、澄華がかつて開いていたルームをなぞるかのようにもがくも失敗し。思い悩む白土の傍ら、二人の思いがぶつかり合う。自分の恋を貫き通すと、譲らないと白熱する。

 

光莉とまるで恋人同士のように、彩葉とかつての距離感のように。

 

 まるであの日を取り戻すかのように、なぞりやり直すかのように。二つの恋と恋の真ん中で、白土の心もまた変化を始める。

 

どちらか一方しか選べない、それは分かっている。だけどどちらかの手を放しても良いのか? 自分の未練は二つ、そのどちらかを捨てても良いのか?

 

「二人が俺に、答えをくれた」

 

 否、選ばぬものがあるのは不純で不誠実だ。だからこそどうすればいい。簡単だ、全部抱えてすっきりしてしまえばいい。誰の涙も見たくない、だから三人でやり直す。何処までも不器用な、けれど彼だからこその答えを三人で共有し。今ここで新たな恋は幕を開ける。

 

だが、そうは問屋が卸さない。まるで割込みと言わんばかりに、三つ目の「名もない計画」が牙を剥く。全てを繋ぐ糸の裏、彼女の思いが目を覚ますのだ。

 

未練と後悔、正に切なく。恋と慕情、正に激しく。嗚呼、何という事だろうか。何とこの恋は真っ直ぐに心を撃ち抜いてくるのであろうか。

 

激しく切なく、もう一度恋が動き出す。だからこそこの作品は面白い。正に綺羅星のように輝いていると私は太鼓判を押したい。

 

全てのラブコメ好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

失恋計画と初恋計画 キミとの恋は、もう失敗しないから (MF文庫J) | 月見 秋水, はる雪 |本 | 通販 | Amazon