読書感想:同い年の妹と、二人一人旅

 

 さて、今「国道」を擬人化した少女、というプロジェクトが始動したらしいが日本人はつくづく擬人化というものが好きであるらしい。競走馬から艦船、はたまた城郭に至るまで様々なものが擬人化されているが次は一体何が擬人化されるのだろうか。という前置きは、この作品においては関係あるかもしれないし関係ないかもしれない。しかし「旅」というものは国道を使うのは確かである。

 

 

しかし、普通に考えれば国道を使うのは自動車、つまりは免許を持っている者である。では免許がない場合はどんな交通手段を使うのか。まず挙げられるのは、鉄道であろう。

 

 そんな交通手段を活かし、日々バイトに励みながらお金を貯めて計画的に一人旅をする事を趣味とする少年、海人(表紙右)。一人旅の中、ふと訪ねた温泉旅館で若女将である同年代の少女、栞(表紙左)と仲良くなり。自分の旅の経験を話す事で仲良くなり、それで終わる筈だった。

 

「あのな、父さん再婚することになったんだ」

 

だが、突然料理人である父親から再婚すると言う話を打ち明けられ。相手方の連れ子として栞と再会し。戸惑う中で何故か旅についてきたいと言う栞に一旦は断るも、彼女の死した父親が遺した旅の思い出を知り。期間を設け、旅行中はそれぞれ別行動するという「二人一人旅」(栞命名)に出かける事になり。

 

 一人でいる事が一番楽だった、誰かといる時は自分は自分ではない筈だった。だが、栞と関わり何だかんだと共に行動をするうちに。二人の心の距離は少しずつ近づいていくのだ。

 

「ほんのちょっとだけ楽しかったかもな」

 

まずはお試しで出かけた日光への旅行。初めての旅行にテンションを上げる彼女に振り回され心をかき乱され。でも、少しだけ楽しさを感じたり。

 

「今までで、一番楽しい旅行になったらいいよな」

 

栞の為に企画した鎌倉旅行。天候アクシデントに見舞われたりしながら、それでも栞を笑顔にするために奔走し。次が最後だと思う中、彼女の笑顔を思い出すと嫌な気分はしなくて。

 

 確かに心が近づいていく、けれど栞は諦めようとする。彼が一人旅に拘る理由を知ってしまい、それを大切にするために自分の心を殺して彼を突き放そうとする。

 

すれ違う中、心の中に浮かぶのは一人旅では得られぬ、知ってしまった楽しさ。栞の旅日記を通じて知る彼女の本心。心の奥底に押し込めた、もっと旅を続けたいと言う思い。

 

「だって、栞はもうとっくに俺と家族なんだから」

 

 だからこそ、今こそ伝えるべき時。過去の理由に拘るのではなく、今の家族を見て。彼女もまた家族だからこそ、また彼女と旅に出たい。その思いを真っ直ぐに伝え、もう一度旅を始めていく。

 

実際の観光地や景色、グルメ。心躍るロードノベルな風味の中に、家族の温かさと優しさの溢れているこの作品。正に心の一番柔らかい所を擽ってくると言える。だからこそこの作品は心に優しいのである。

 

心で優しさを求められている読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

同い年の妹と、二人一人旅 (MF文庫J) | 三月みどり, さけハラス |本 | 通販 | Amazon