読書感想:戦鬼と戦姫の聖災戦争

 

 大鬼、前鬼、後鬼。例えとしてこの三体をあげた事で私の趣味の一端が画面の前の読者の皆様にバレてしまっている気がするが、画面の前の読者の皆様は既に共通点にはお気づきであろう。そう、「鬼」である。FGOを嗜まれる読者様には、酒吞童子茨木童子のような存在と言った方が親しみ深いかもしれない。では鬼とは創作においてはいったいどういう描き方をされる事が多いであろうか。

 

その答えは様々であろう。人間界に溶け込み共存している鬼だっている、強力な陰陽師に仕える鬼だっている。

 

 しかし、人間と相争う鬼とている。この作品における鬼とはそういう存在であり、平安の世から歴史の暗部で鬼と相争う存在なのである。

 

平安時代ライコウという武者が鬼の始祖を討ち、始祖によるライコウの血族を皆殺しにせよという呪いが鬼たちを縛り千年以上。今も尚、鬼とそれを討つ者、「鬼討」の戦いは続く。

 

「この首を渡す気はねぇ」

 

「あなたの首は誰にも渡さない」

 

 そんな世の裏、幾度となく戦う人影二つ。一つは童貴。三本の角を持つ始祖の血族の直系。もう一つは朱璃(表紙)。最強の鬼討と呼ばれる者。幾度となく戦い殺し合う中、二人の間には奇妙な縁が結ばれ、それは秘めた恋心へと昇華していた。その恋心を再び秘め、乱入してきた鬼たちをあっという間に叩き伏せ。童貴は身を隠す為、鬼討達を育成する学び舎、平城京学院へと潜入する。当然そこには朱璃もいる。だがしかし、戦いを交えず初めて遭った朱璃は何故か全身を鎖で縛られていたのである。

 

何故そんな事になったのか。それは先述の一件で鬼との内通を疑われたから。ある意味では真実の其れに一先ずの納得をし、彼女と共に童貴は学生としての生活を始める。

 

 同級生となる少女達、彩月やリセ。学院の巫女である雷火と出会い親交を深めながら、今まで朱璃以外との交戦経験が無かった童貴は鬼討の世界に触れていく。だがしかし、子供達しかいないということ以外は平穏にも見えるこの学院では今、生徒達の行方不明と言う事件が発生し。ひょんな事から童貴もまた、その中へと飲み込まれていく。

 

不意打ちで自分の心臓を刺し貫いた謎の存在を「影椿」と呼称し。行方不明となった生徒達と最後に接触していたと言う事から重要参考人と疑われ。水牢に囚われるも朱璃の助けを得て何とか脱出した童貴の前、事件の黒幕は不意に姿を現す。

 

何故黒幕はそんな事をしたのか。それは黒幕がその役職故に抱えてしまっている痛ましい事情の為。

 

そして隠し事をしていたのは、朱璃もまた同じ。あの日、童貴と共に引き返せぬ点を越えてしまった彼女が得てしまったもの。必死に自身の存在を繋ぎ止めようとするのは何故か。それはひとえに童貴のため。彼との関係を失わぬ為。

 

「悪いな、朱璃。こうなったらもう―――止まれない」

 

 それが彼女の覚悟であるのならば、彼が示さねばならぬ覚悟は何か。それこそは自身を曝け出す事。今まで朱璃にしか見せなかった鬼としての己を曝け出す事。始祖の血族、その力、正に無敵。その力を以てすれば黒幕を蹂躙するなど容易い事。

 

しかし、最強の力を以てしても解決できぬものがある。 黒幕をぶちのめし判明するのは別の敵の存在。「影椿」は他に存在すると言う事実。

 

だからこそ、戦いは未だ始まったばかりなのである。

 

意地っ張りでチョロい二人の決して結ばれぬラブコメにミステリーを絡めたこの作品。当たり前のラブコメとは何味も違う、正に「活劇」。故に一度ハマったら病みつきになる心躍る面白さがあるのである。

 

活劇系の作品が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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