読書感想:獄門撫子此処ニ在リ

 

 さて、突然ではあるが画面の前の読者の皆様は、陰陽師と聞いてどのキャラを思い浮かべられるであろうか。怪異、関係であれば該当するキャラはまぁまぁいるかもしれないが、陰陽師まで深堀していくと、中々いないかもしれない。では陰陽師、と言えばどんなイメージを連想されるであろうか。 やはり怪異とぶつかり合って、祓う、というイメージが多いのかもしれない。

 

 

さて、ではこの作品における主人公、撫子(表紙)は陰陽師であるのか? その答えは正解であり、正解ではないのかもしれない。彼女は陰陽師であり、陰陽師とは少し違う。

 

「わたしは鬼喰らう鬼―――化け物を糧とする者」

 

彼女こそは、陰陽師の一門の中でも忌まれる一族、「獄門家」の麒麟児。 地獄より現れ、人間も化け物も悉く喰らう外道となり果てた一族の申し子。 その身体は止めどなく地獄の鬼。その心に人としての思いを宿し、六道地獄の力を用いて、化け物を狩って喰らうもの。

 

「―――私のために死にたまえよ、君」

 

 

彼女がある日、鬼に取りつかれた陰陽師の一族からの依頼の場で出会った謎の女、アマナ。何処か捉えどころのなく、しかし自分を恐れない。今までに出会ったことのないタイプである彼女は、撫子の仕事を手伝い。その裏で、事態の黒幕の魂を回収していく。彼女の目的のままに。

 

 

その目的を知らぬ間に、二人は共に行動する事が増えていく。トンネルに巣食う怪異、学園に潜む呪いの残滓といった、数々の怪異を討伐していく中で。関りが増えていく中、お互いにお互いの事に迫っていく。

 

お互いの事、それ即ちお互いの本質。 化け物の身体に人間の心を宿す撫子とは対照的に、アマナは人間の身体に怪異の心を宿すもの。 世界から拒まれるもの同士、迎合しかけて、だけど不幸に巻き込めないと言う撫子から引き離されて。

 

「あなたさえいなければ、わたしは鬼でいられたのに・・・・・・ッ!」

 

 

だけど、既にアマナは撫子にとっての一部となってしまった。鬼の執着を超え、人としての執着を取り戻させてしまった。鬼としての彼女を、人に引き戻してしまった。だからこそ逃がさない。例え地獄に堕ちようと、もはや手遅れ。求めるからこそ逃がさない。それは人でもあり鬼でもある彼女の、感情の強さ。その執着に囚われ、化け物へと変わりかけていたアマナも引き戻され。二人で協力して、化け物を討つのである。 過去からの亡霊、悲しき執着に囚われたバケモノを。

 

血が舞い踊り、地獄がこれでもかと顕現する怪異溢れる伝奇ファンタジーの中に、彼女が彼女に出会う、親愛からなる百合の面白さがあるこの作品。伝奇ファンタジーの息吹に飲み込まれてみたい読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

Amazon.co.jp: 獄門撫子此処ニ在リ (ガガガ文庫 ガふ 6-1) : 伏見 七尾, おしおしお: 本