読書感想:勇者症候群

 

 さて、様々な作品で「勇者」というものが描かれている訳であるがそも勇者とは一体何なのであろうか。誰かの希望となる者か、輝かしき活躍をする者か。様々な描かれ方をするわけであるが、勇者を悪として描いている作品もあり。一概には答えは出ないし、正解は様々にあるのかもしれない。ではこの作品における「勇者」とは何なのか。

 

 

「・・・・・・化け物め」

 

この作品における勇者、それは忌むべき存在。人類に仇為し災害の如く被害を齎す、「女神」とだけ呼称される正体不明の存在により子供達が変貌させられる化け物。その姿は何故か大人には見えず子供だけに見える、故にその対処に当たるのは子供達。「殲滅軍」と呼ばれる組織、対抗するのは勇者を素材とした武器を用いる者達。その精鋭部隊を率いる少年、アズマ(表紙右)はある日新たなメンバーとして、研究班に属するカグヤ(表紙左)を仲間に加える。

 

「それ以上でもそれ以下でもない」

 

 だが簡単に二人は分かり合えず、始まりからしてぶつかり合ってしまった。何故ならば考え方が違うから。アズマにとって勇者は殲滅対象、カグヤにとって勇者は救うべき者。反りが合わず最初から息が合わぬ中迎える初めての実戦。ヒーローを醜悪に模した勇者との戦いの中、カグヤの耳にだけ聞こえた勇者となった者の声。その声を疑問に思う間もなく次の戦いで。突如現れた女神により、アズマの仲間が勇者へと変えられ。哀しき決着をつける事となってしまう。

 

「協力してくれるか? 中尉」

 

改めて話し合い、カグヤの特異性を理解したアズマにより立てられる新たな作戦。勇者の内面に触れていく事で被害を減らすと言う目的は成功するも、代償としてカグヤの消耗を招き。彼女の特異性の秘密は明らかとなり、療養も兼ねて舞台から離れた途端。今度はアズマに女神が迫り、勇者へ変えられてしまう。

 

 

「どうせそうなるだろうと思っていたからね」

 

目撃するアズマの暴走、耳に過るのは仲間から託された願い、希望となる事。最早迷う事は無し。上官から背を押され、アズマ達の元へ駆けつけたカグヤは、アズマの世界に触れ彼の抱えた後悔に触れる。

 

「まったく、最後まで世話が焼ける人ですね」

 

その後悔はもう叶わぬもの。乗り越えねばならぬもの。人間らしく弱さを見せるアズマにカグヤは寄り添い、共に因縁に決着をつけ。因縁の元、黒幕である女神と決着を付けに向かう。

 

繰り出す刃は、拳は怒りと共に。叩きつけるのは激情、人間としての意志の強さ。一つの決着は確かにつき、新しい道は開ける。勇者を別の意味で救える新たな道が。

 

シリアスに溢れ、決して優しくはない世界の中で生の感情が木霊するこの作品。正に真っ直ぐに熱くて面白いと太鼓判を押していきたい。

 

熱い作品が好きな読者様は是非。

 

きっと貴方も満足できるはずである。

 

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